多くのドライバーが不満を持っている、警察によるスピード違反の取り締まり。その背景には、実態に合わない制限速度や、公平でない抜き打ち的な取り締まりがある。その理不尽な実情をリポートした。

 3月1日、中央自動車道を235km/hで暴走した男が逮捕された。男はナンバープレートを外して走行、’15年ごろから大幅なスピード違反を繰り返していたという。

 これは確信犯だが、多くのスピード違反者はスピードを出そうと思っていないのに検挙され、違反キップを切られているのが現状だ。

 一昨年の11月、記者は知床(北海道)での北方領土問題の取材を終えた後、稚内に向かう片側1車線の国道を走っていた。すると後続車が後ろにぴったりついて煽ってきた。

 確かに制限速度違反であることは認めるが、そもそもその設定自体に問題があるのではないかという疑念がぬぐい切れない。

検事総長も「制限速度を無視するほかはない」

 警察庁を管理する国家公安委員会委員長だった古屋圭司氏は’13年6月4日、実態に合わない制限速度について苦言を呈している。

「危険もない直線道路で制限速度20km/h超過を取り締まるのはどうか。真に事故抑止に資する取り締まり、取り締まられた側が納得できる取り締まりのために場所、時間帯、方法を見直していく」

 実際、検挙されるケースの大部分が20km/h前後の超過だ。その方法は待ち伏せや覆面パトカーなどによる抜き打ち的なもので、実際に超過しているクルマの1%も検挙できていないとされる。
古屋氏は全国の警察本部長に取り締まりの実態調査を指示したが、4年以上たっても北海道警などに浸透している兆しはまったくない。

 制限速度設定に異議を唱えている今暁美弁護士は、道東の美幌町の国道243号で’95年、37km/h超過(制限速度は60km/h)で取り締まりにあったが、略式裁判ではなく正式裁判を選んだ。
そのとき今弁護士が一貫して主張したのが「その速度で走って何が悪いのか」ということだ。現場の国道243号は周囲が畑ばかりで、見晴らしのいい一直線の道路。人もクルマもなく、快晴だった。

 裁判では、この区間の死亡事故が6年間ゼロだったことを記載した「交通安全マップ」(北海道交通部監修)などの証拠をいくつも提出。
その一つが伊藤栄樹・最高検察庁検事総長(当時)の執筆記事(’86年9月15日号『時の法令』)で、北海道でのドライブについて次のように記していた。

「六〇キロで走る車があると、たちまちそれを頭に数珠つなぎができ、反対車線へのはみだしでの追い越しが始まる。それが追い越し禁止区間であっても同様である。
後続車を対向車との衝突の危険から守るためには、制限速度を無視してスピードをあげるほかはなさそうである」


https://nikkan-s◯pa.jp/1460887/2