1月28日に出場32校が決定する第94回選抜高校野球大会。「21世紀枠」の全国9地区の候補校を担当記者が紹介します。7回目は倉吉総合産(鳥取)。野球人口の減少に危機感を持ち、普及と部活動を両立させる姿を追いました。

 ◇野球の普及に奔走「10年先が不安」

 園内の一室に、子どもたちの楽しそうな声が響いた。2021年12月の冬休み。午前の練習を終えた倉吉総合産の選手たちは、自転車で隣町のこども園を訪れた。

 年長児36人に対し、女子マネジャー3人が手製の紙芝居で野球について説明した。選手との鬼ごっこなどに続き、ゴムボールやプラスチック製バットを使い、野球の基本動作の「投げる」「捕る」「打つ」を体験してもらう。はじめは空を切ったバットが次第にボールをとらえるようになると、園児の笑顔がはじけた。創意工夫をこらした約1時間半の交流を終え、主将の安達楓真(2年)は「たくさん笑顔を見ることができた。子どもたちに野球をやってほしい」と話した。

 学校のある鳥取県倉吉市は人口約4万5000人。過疎化が進み、この25年で約1万人減った。野球人口の減少も著しく、最大12あった少年野球チームも半減しているという。定常弘顕監督(42)は高校野球の普及・発展を目指す日本高校野球連盟の「高校野球200年構想」に触れたうえで「単独でチームを組めない中学も多い。田舎では、10年先の高校野球がどうなっているかも不安」と危機感をあらわにする。競技の普及を目指して小学生対象の野球教室なども実施しているが、より幼い時期から野球に関心を持ってもらおうと始めたのが未就学児との交流だ。定常監督が前任の倉吉東時代に始め、19年から率いる倉吉総合産でも冬場を中心に続けている。

 ◇ものづくりの精神を練習に生かす

 溶接技術を学ぶ機械科の部員が制作したバットケースを少年野球チームに贈るなど、学校の強みも交流に生かす。ものづくりの精神は練習にも根づき、防球ネットやカウントボードは部員らが修繕を重ねて使っている。

 選手は26人全員が地元出身で、定常監督の熱心な指導で着実に成長。昨夏の鳥取大会で5年ぶりの白星を挙げ、秋は準優勝と躍進した。中国大会では優勝した広陵(広島)に初戦で0―6で敗れたが、全国レベルを肌で知った。

 倉吉を中心とする県中部の学校は、春は1989年の倉吉東、夏は2006年の倉吉北を最後に甲子園から遠ざかる。「倉吉から甲子園に行きたい」とエースの伊藤愛希(2年)。過疎化も野球人口減少も多くの地域に共通する課題だ。鳥取勢初となる21世紀枠での選出が、現在、そして未来の球児の希望になると信じている。【野村和史】

 ◇倉吉総合産

 2003年に倉吉産と倉吉工が統合して発足した県立校。第2種電気工事士など国家資格取得に積極的に取り組んだり、地元企業と連携して商品開発を行ったりしている。野球部は03年創部で、前身の両校を含めて甲子園出場はない。

1/19(水) 7:00
https://news.yahoo.co.jp/articles/e776c5839055bf9cf99865cd664ced3f3aa3e129