三菱重工業、「飛鳥U」後継船建造の受注逃す、独企業が受注…“造船王国・日本”の没落

飛鳥IIの後継船はドイツのマイヤーベルフトが建造

 日本郵船は3月31日、「飛鳥II」の後継船を新造し、2025年に就航させると発表した。後継船は高級路線をさらに進化させる。全長は229mでほぼ同規模だが、船の大きさの目安となる総トン数は5万444トンから5万1950トンにアップ。日本船籍の客船としては最大となる。喫水も7.8mから6.7mと浅くなることで停泊可能な港が増え、これまでにないコースを設定できるという。

 乗客定員は872人から約740人に絞る。これにより乗客1人当たりのスペースは世界でもトップクラスの広さを確保した。一方、接客や運航を担う乗組員は約470人と微減にとどめ、乗客1人当たりの接客を手厚くする。「飛鳥II」はツインルーム以上しかなかったが、後継船はシングルルームを設け料金の下限を下げる。全客室にバルコニーを配するほか、船内レストランやカフェ、バーは15カ所以上。船首に向いた展望露天風呂も備える。Wi-Fiも充実させワーケーション需要にも応える。

 新船は環境対策に力を入れる。重油に比べ二酸化炭素(CO2)排出量の少ない液化天然ガス(LNG)を燃料として使えるエンジンを搭載。港によっては停泊中に船内発電機を使わず、陸上電源を利用できる仕様にする。

 乗客の不安を和らげるため新型コロナの感染症対策を徹底する。船内の換気システムを100%外気取り込み方式にし、高性能フィルター、タッチレス操作対応エレベーターの設置を考えている。「飛鳥」と「飛鳥II」はいずれも同じ三菱グループの三菱重工が建造したが、後継船はクルーズ船の建造で定評のあるドイツのマイヤーベルフトと造船契約を締結した。

 三菱重工は2011年、大型客船2隻を1000億円で受注した。大型客船は11年ぶりの受注だったため建造のノウハウが足りず、無線LANの整備や欧米人好みの装飾などの点でつくり直しが相次いだ。納期が約1年遅れた結果、累計で2540億円の特別損失を計上する破目に陥った。三菱重工の宮永俊一社長(当時)は16年10月、10万トンを超える大型客船の建造から撤退すると表明した。

 日本に三菱重工以外に大型客船を建造できる造船所はない。マイヤーベルフトでの建造は“造船王国ニッポン”の落日を象徴する出来事となった。

https://biz-journal.jp/2021/05/post_224525_2.html/amp