AERA2021.8.15 18:00
https://dot.asahi.com/dot/2021081300009.html

野球の審判も人間。時には誤審を犯したり、微妙な判定を下してしまうこともある。夏の甲子園でも、“疑惑の判定”がクローズアップされた試合が少なくない。

1球の判定が、勝敗に大きな影響を及ぼす皮肉な結果を招いたのが、2007年の決勝、佐賀北vs広陵だ。

強豪私立校の野球特待生制度が社会問題化したこの年、公立校の佐賀北が、準々決勝で帝京、準決勝で長崎日大の私立勢を相次いで撃破し、“がばい旋風”を巻き起こした。

だが、決勝戦では、広陵のエース・野村祐輔(広島)の前に7回までわずか1安打に抑えられ、0対4。この時点では、誰もが広陵の勝利を確信したはずだ。

そんな劣勢から、佐賀北が猛反撃に転じたのが8回だった。1死から連打で一、二塁としたあと、辻尭人が四球を選んで満塁。野村が低め一杯に投じた直球、スライダーがいずれもボールと判定され、ストライクゾーンが狭くなったように感じられた。

スタンドからもさわやかイメージの公立校を応援する激しい手拍子が起こるアウェー状態のなか、野村は次打者・井手和馬に対し、カウント3−1から外角低め一杯に“運命の5球目”を投げたが、判定は「ボール!」。捕手・小林誠司(巨人)がミットで3度地面を叩いて悔しがるほど微妙なコースだったが、ボールと判定された以上、どうにもならない。押し出しで1点が入った。

そして、ここから試合は一気にひっくり返る。なおも1死満塁で、3番・副島浩史は、野村のスライダーが真ん中に入ってくるところを見逃さず、左翼席に弾丸ライナーの逆転満塁アーチ。佐賀北は大逆転勝利で、出場49校の頂点に上りつめた。

公立贔屓と取れなくもない疑惑の判定に、試合後、広陵・中井哲之監督は「ストライク・ボールであれはないだろうというのが何球もあった。もう真ん中しか投げられない。少しひど過ぎるんじゃないか。負けた気がしない。言っちゃいけないことはわかっている。でも、今後の高校野球を考えたら……」と不満をあらわにした。

高野連は「審判は絶対的で、不満を言うのは好ましくない」と中井監督を厳重注意したが、その後もファンの間で「準々決勝の帝京のスクイズもセーフだったのではないか?」などと、激論が交わされた。

誤審でチャンスを逃したばかりでなく、打球の不運も追い打ちをかけ、初戦敗退に泣いたのが、89年の北海だ。

2回戦の桜ヶ丘戦、2点を追う北海は7回1死一、三塁のチャンスに、3番・榊世志明がスクイズを試みた。だが、打球は地面に跳ね返って榊世の右手に当たったあと、捕手の前に転がった。本来ならファウルだが、当たったのが見えなかったのか、判定は「フェア!」。

直後、三塁走者・原田博文は、タッチをうまくかわし、本塁にスライディングしながら、左手でベースタッチ。好走塁で1点を返したかに思われた。

ところが、球審は「(ベースに)タッチしていない」と生還を認めず、原田は追いかけてきた捕手にタッチされ、アウトになった。

「左手の指の先に土が付いていた。ベースに指の跡もあった。確かに触った自信はあるのに……」と納得できない原田だったが、判定は覆らない。1点は幻と消えた。

さらに2対6とリードを広げられた8回、北海は無死一塁で、5番・土谷秀一が左中間を深々と破る快打を放つ。一塁走者が生還したが、打球が外野フェンスの大会看板の溝に入るという前代未聞の珍事からエンタイトル二塁打とされ、走者は三塁に戻されてしまう。

打った土谷も「当たりは完全な三塁打。どうして二塁に戻れと言われたのかわからなかった」と首を捻った。不可抗力としか言いようがない。

7回の誤審に続き、今度は打球の不運で得点できなかった北海は、無死二、三塁のチャンスも生かせず、夏の大会で7回連続初戦敗退。2回の攻撃中、リードを取った三塁走者が、前日の雨でぬかるんだグラウンドに足を取られ、2度にわたってけん制アウトになったのも痛かった。

ツイてないときは、何をやっても裏目……。これも甲子園の怖さである。

審判の勘違いから併殺が取り消される珍事が起きたのが、17年の1回戦、智弁和歌山vs興南だ。

9回に冨田泰成の左前タイムリーで9対6とリードを広げた智弁は、なおも1死一塁で、次打者・西川晋太郎のカウント1−1からの3球目に冨田が二盗を試みた。西川が空振りして捕手の二塁送球を妨げたと判断した球審は、守備妨害でアウトを宣告。富田もタッチアウトになり、結果的に併殺でスリーアウトチェンジになった。

だが、野球規則では、走者がアウトになったときは、守備妨害はなかったものとして、打者はアウトにならないと定められている。

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