巨人の桑田真澄氏が「9回完投135球」の持論を唱えたのが話題になった。同氏に取材経験もある記者による記録を含めた「球数」考察を前後編の2回に分けてお送りする(後編はこちら)。

 新型コロナ禍の春季キャンプでひときわ注目を集めているのが巨人の桑田真澄一軍投手コーチ補佐だ。2006年に退団して以来15年ぶりの巨人復帰である。

 そして就任にあたって桑田コーチは「先発投手は9回完投135球を目指すべき」と持論を唱えたことが、大きな話題になっている。

「野球は近い将来マイナースポーツに」

 2016年の「野球科学研究会大会」ではホストの東京大学を代表して桑田氏が基調講演を行ったが、その冒頭、桑田氏は「野球は近い将来マイナースポーツに転落する」と強烈な言葉を放った。その背景に、選手のことを考えない指導者の姿勢、さらに非科学的な指導があると指摘した。

 桑田氏は古今の名投手の投球フォームの写真を掲げて「昔から投手は投げるほうの肘を肩よりも上げて投げなさい、と教えられたが、大投手たちの肘はみんな下がっている。そうしないと投げられない」と指摘し、昔からの野球指導が科学的な根拠に乏しく、観念的なものであることを厳しく批判した。

実は日本の先発投手は“投げな過ぎ”?

 昨今のNPBは規定投球回数に達する投手が激減している(2010年はセ・パ合わせて28人、2020年は14人)。これは先発投手の投球回数が減少していることを意味する。

 今のNPBの先発投手は中6日、つまり週1回しか投げない。であるのに6、7回、100球前後で降板する投手がほとんどだ。

 MLBでも先発投手は100球前後で降板するが、こちらは先発の登板間隔は4〜5日だ。

 NPBでは143試合制では3000球を投げる投手はシーズンに1、2人しかいない。2019年は、26先発で3007球を投げたソフトバンク千賀滉大1人だったが、MLBでは162試合制だった2019年では34先発で3687球を投げたトレバー・バウアー(インディアンス、レッズ)を筆頭に29人の投手が3000球以上投げている。

 NPBの先発投手は投げな過ぎではないか、という意見は桑田氏以外からも出ていた。

 2014年夏には当時レンジャーズのダルビッシュ有が「(MLB)の中4日は絶対に短い。球数はほとんど関係ないです。120〜140球を投げても中6日あればじん帯の炎症も全部クリーンにとれる」と言い、中6日での登板ならば100球を大きく超えて投げても大丈夫だと訴えた。

 ダルビッシュが「中6日あれば120球、140球でも大丈夫」と言ったのも登板間隔の差を考慮してのことだ。桑田氏の「9回完投135球」にも検討する余地はあるといえるだろう。

桑田コーチは実技、実績、研究でも一流だ

 桑田氏は、根性論、精神論からは一番遠いところにいる野球人だ。早稲田大学大学院では日本野球の精神主義の歴史について学び修士号を取得、東京大学大学院では投手の動作解析などバイオメカニクスについて研究した。40歳を過ぎても130km/hを優に超すボールを投げることができた桑田氏は、大学院の研究では自らが実験台になることもあったという。
★抜粋
https://news.yahoo.co.jp/articles/9c431e458d0710fb93603071bec856388216cd8e?page=1