「芸能人声優がいなくてよかった」は本当か

 劇場版『鬼滅の刃』は歴代最速で興行収入300億円を超え、異例のロングヒットを記録している。同作品は竈門炭治郎役に花江夏樹、嘴平伊之助役に松岡禎丞など、実力と人気を兼ね備える声優がズラリと名を連ねている。

 アニメ作品の話題になると、必ず「声優は本職の声優さんに」という問題が挙がる。『鬼滅』に関しても、深夜テレビアニメの劇場版作品なので、本職声優ばかりなのは当然なのだが、ネットでは「芸能人声優がいなくて良かった」という声も散見される。

 だが、それほどまでに芸能人声優というのは非難されるべきなのだろうか。よく「宣伝ありきの起用」とは言われるが、逆に宣伝効果はどれほどあるのだろうか。これまでのケースを踏まえて、改めて考えてみたい。

 2020年はコロナの影響が顕著なため、2019年のアニメ映画を例に挙げよう。公開時期や公開館数の違いがあるために単純比較はできないが、2019年に興行収入10億円を突破した邦画アニメ作品は140億円の『天気の子』をはじめ、16作品あった。

 そのうち、芸能人声優を起用している作品は11作品、起用していない作品は5作品となっている。今となっては、芸能人を起用しないヒット映画のほうが少なくなってきているのだ。

 まず、芸能人をゲスト声優に起用しているケースからみていこう。

 興行収入上位では『名探偵コナン 紺青の拳』(山崎育三郎、河北麻友子)や『ONE PIECE STAMPEDE』(ユースケ・サンタマリア他)などの作品があげられる。ただし、両タイトルともすでに広く名前が知られたマンガ原作であり、タレント起用の有無が動員を大きく左右したとは言えないだろう。

 オリジナルアニメについて目に向けると、上記の16作品のうち『天気の子』と『プロメア』の2作品だ。

 『天気の子』は醍醐虎汰朗、刑事役の小栗旬などが声優起用しているが、社会現象となった『君の名は。』の新海誠監督最新作であり、話題性は十分。先に挙げた2作品と同じく、タレント起用が大きな話題を呼んだとは言えないだろう。

作品にいかにマッチするかがポイント
 一方、人気アニメスタジオ・TRIGGERの新作だった『プロメア』は、芸能人の声優起用がうまくハマったパターンと言える。

 松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人の演技が、独特の原色を用いたアニメ表現にマッチした。脚本を務めた中島かずきは、劇団☆新感線でも親交のある松山などを思い浮かべながら脚本を書いていると明かしているが、役者に対する深い理解がなければできないキャラクター造形やセリフ回しであり、役者もそれに応えた。

 『プロメア』公開初週の3日間の興収は、9700万円と決して多くない。応援上映などの数々の施策を行い、女性を中心に多くの熱いファンを獲得した結果、15億円のスマッシュヒットに到達した。よってこちらは、話題先行ではなく、演技を含めた作品のクオリティがあってこその人気だったといえる。

 もちろん、芸能人が声優を務めたからといって、ヒットが約束されているわけではない。『きみと、波にのれたら』では片寄涼太、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎などが出演、『HELLO WORLD』では北村匠海、松坂桃李、浜辺美波などを『空の青さを知る人よ』では吉沢亮、吉岡里帆などを起用しているが、いずれもヒットの基準となる10億円には達していない。

 それでは、芸能人を起用しなかった映画はどうなのか。「餅は餅屋」で豪華声優陣を揃えながらも、なかなか興行収入が伸びなかった作品もある。

 2019年3月公開の『スパイダーマン: スパイダーバース』はアメリカアカデミー賞の長編アニメーション部門受賞直後の日本公開。『アベンジャーズ/エンドゲーム』の前とあり、アメコミ映画の注目度も増し、話題性は十分だった。

吹き替えには小野賢章、宮野真守、悠木碧、大塚明夫などの、アニメファンならば誰もが知る人気・実力を兼ね備えた声優を起用した。しかし、結果としては日本興収入は10億円にも届かず、過去のスパイダーマン映画と比べても寂しい結果となっている。

全文はソース元で
https://news.yahoo.co.jp/articles/59681467b51c7eafae0b92a44b3ae4186f04cab5
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