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楽器業界での勤務経験もある音楽ライターの冬将軍氏に話を聞いた。

「“経営破綻”と言っても、ギブソンおよび、エピフォンのギター生産開発及び販売事業は継続していくそうです。
旧経営陣がそのまま企業に残ることができる法律。あくまで会社の再生を目的としたもので、日本の倒産法である会社更生法とは異なり、
民事再生法に近いものです。ユナイテッド航空やアメリカン航空はチャプター11申請後にしっかり再生していて、
アメリカン航空に関しては、現在世界最大規模の航空会社になっているほど。

また、自動車メーカーのクライスラーは申請からわずか1カ月で再建に成功しています。ギブソンも再建する可能性は十分あるでしょう。
債権者数にして過半数かつ債権額にして3分の2以上の賛成により承認されなければならない、と定められており、今回ギブソンは承認されています。
つまりそれは、負債を返済できる見込みがあるということです」

ではギブソンはそもそも、なぜ経営破綻にまで追い込まれてしまったのだろうか。

「オンキヨーやティアック、オランダのフィリップスのオーディオ事業であるウークスの買収が一因でしょう。
中でもウークスに関しては買収金額に見合った回収ができていないと言われています。実は、ギブソンはギター事業だけで見ると黒字だったので、
今後は買収した企業を手放してギター事業に徹することによって、会社自体の再建を図っていくようです」

 再建のキーパーソンは誰なのか。冬将軍氏は、ギブソンCEOのヘンリー・ジャスキヴィッツを挙げる。

「彼はもともと投資家で、1986年に倒産しかけていたギブソンを買収して救ったやり手です。
80年代に、その概念すらまだなかったヴィンテージに目をつけ、リイシュー(復刻)モデルを作ったり、
フラットマンドリンやバンジョーの生産を復活させるなど、古き良きギブソンを目指した。今の多くの人が知っているギブソンの姿は、
このヘンリー・ジャスキヴィッツが作り上げたものなんです。

ギブソンは1902年に創業し、最盛期とも呼ばれる1944?1969年はChicago Musical Instrumentsの傘下でした。その後業績不振に陥り、
コングロマリット(全く異なる業種に参入する企業形態)が流行した1969年に、
パナマに拠点を置くビールやセメントを扱っていたエクアドルの複合企業ECL(のちにNorlin Corporationに社名変更)に買収されます。
この“Norlin Era”(ノーリン期)と呼ばれる時代は、木の切れ端を寄せ集めてプラスチックでラミネートしたギターをはじめ、デ
ザインや機能性含めて“B級ギター”や“ビザールギター”に属されるような数多くの“迷器”を作っていたこともあり、
多くのギターファンから迷走期、低迷期と呼ばれています。
老舗ながら、現CEOが入るまでは経営自体はあまりうまくなかった企業だと言えるでしょう」

 万一ギブソンが倒産した場合、ギブソンというギターブランドもなくなってしまうのだろうか。

「もちろん再生が失敗し、本当に倒産することもあるかもしれません。
しかし、たとえそうなったとしてもブランドとしてギブソンがなくなることはあり得ないと思います。
企業規模が保てない最悪の状態になったとしても、ブランドと特許を管理しながら他社にOEM生産を委ねるという事業形態も十分考えられます。

ギブソンと並んで伝統ある楽器メーカー、グレッチは何度か経営不振に陥り、1967年にはボールドウィンというピアノメーカーに買収され、
1980年にギターの製造を中止しています。その後、Stray Catsのブライアン・セッツァーが使ったことで人気が再熱。
そして、1985年に会社は創業者であるグレッチ一族の手に戻り、1989年からリイシューモデルを中心としたラインナップで製造を再開するんですが、
現在に至るまで製造を担当しているのは日本の企業です。商標ライセンスと権利を持つブランドと、製造事業は別だという在り方ですね」

 冬将軍氏は最後に、「あくまで『会社を再建するため』の米連邦破産法第11章申請であり、
今回の経営破綻は、ギブソンブランドを守るための現段階における最良の手段だったのでは」と指摘した。

 世界中で長年にわたり愛されてきたギブソン。これからも多くのアーティストとリスナーから支持されるブランドであり続けてほしいものだ。