ある実業団の陸上部OBがこう言ったのは、25日の東京マラソンで、設楽悠太(26)が2時間6分11秒の時計で16年ぶりに日本記録を更新したことだ。陸連の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー(61)は、設楽の記録を「16年ぶりですから、こんなめでたい話はない。これで一気に東京オリンピックに弾みがついた」と大喜びだったが、確かに胸中は「複雑」かもしれない。

 瀬古リーダーは早大、エスビー食品時代、中村清監督(故人)の厳しい練習に耐え、福岡国際V4を達成。幻の80年モスクワ五輪や84年ロス五輪の代表にもなり、ボストン(81、87年)、シカゴ(86年)、ロンドンマラソン(86年)も制したことがある。

 冒頭のOBが言う。

「当時の瀬古さんは中村監督の下で、本当によく走った。40キロの後に2000メートルや5000メートルを3、4本走る。それからインターバルでスピード強化もやっていたはずです。70キロや80キロを走れば、フルマラソン(42.195キロ)は短く感じるという人ですからね。中村監督仕込みのハードな練習で強くなったという成功体験がある。だからQちゃん(高橋尚子=45)が大好きなんです」

■走り込みなし

 シドニー五輪の女子マラソンで金メダルを取った高橋も、長い時は1日に80キロ、最低でも40キロは走っていた。「月に1200〜1300キロ走るのは普通」と、かつて日刊ゲンダイのインタビューでも語っていた。

 日本記録を更新した設楽はフルマラソンは3回目。練習では40キロ走はやらず、「(距離を走ることは)必要ないし、今は効率のいい練習が大事」とキッパリ。海外留学中で、12月の福岡国際で2時間7分19秒を出した大迫傑(26)も、走り込み否定派だ。

「今の若い選手は、距離を走るより、練習には効率性を求める。この練習は何のために行うのか、どう結果に結びつくのかという、理由や根拠を求める。瀬古さんは中村監督のマンツーマンの教えで強くなった、いわばサイボーグです。だから、走れ、走れという練習や、監督と選手には1対1の徹底指導を望んでいる。設楽の日本記録更新は気象条件や高速コースへの変更といった好条件が揃っていたし、2月の東京で2時間6分台で走ったからといって、酷暑の五輪でメダルが取れるというものでもないが、瀬古さんの持論に説得力がなくなったことだけは間違いない」(前出のOB)

 瀬古リーダーが早大入学時に出会った恩師は62歳だった。マラソンの日本記録が16年ぶりに更新された今年、弟子も同じ年齢になる。

 東京五輪のマラソン強化を託されているだけに「40年前とは時代が変わった」とボヤくことはできない。マラソンランナーは今後の瀬古発言に注目だ。

3/2(金) 9:26配信
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