9/5(月) 11:30配信

東スポWeb

 マイク1本でステージに立ち、日常生活から政治、宗教、芸能、下ネタなど、ありとあらゆる社会ネタに風刺や皮肉を織り交ぜながらしゃべる芸がスタンダップコメディだ。ただ欧米ではポピュラーでありながら、日本ではなかなか理解されにくく、むしろ批判を受けることも多い。そうした中で日本スタンダップコメディ協会副会長を務め、日本での普及に努めているのがお笑い芸人のぜんじろう(54)だ。活動の裏には、亡くなったある大物芸人の後押しがあったという。

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 ぜんじろうは先月19日に大阪市内で「スタンダップコメディ~ココだけのアノ話~」を開催するなど、精力的に活動。

 ただ「やめよかなと思ったこともある。分かってもらってないし誤解もされる」。今年6月にれいわ新選組の街頭演説に参加した際には、「麻生(太郎)大臣と安倍(晋三)元首相と森喜朗が乗った飛行機が墜落しました。助かったのは誰か? 日本国民」と話して批判を浴びた。

 欧米ではポピュラーでも、日本では受け入れられるどころか襲撃予告までされているというのに、なぜスタンダップコメディを続けるのか?

 ぜんじろうは1987年、上岡龍太郎さん(引退)に弟子入り。「上岡に教わったのは『大樹の陰には寄り付くな。長いものには巻かれるな。いつか落ちるんだ。しばしの栄光に酔おうではないか』。弟子が明けた時にこれを書いた紙をもらったんです。いつか亡くなるんだから好きなことをしろと。上岡はギャグのつもりやったみたいですけど」

 上岡さんは落語家の故立川談志さんを尊敬し、立川流の芸能人コースに弟子入りしていた。談志さんの独演会に出演した上岡さんに代わって打ち上げに参加したぜんじろうは、一門の弟子やビートたけし、古舘伊知郎らが居並ぶなかで、初めて談志さんと話をした。

「談志さんから『お前は誰、目指してんだ?』って聞かれました。こういう時は、マニアックな外国人の名前を出すのがセンスがいいと上岡と話していたことがあったので、見たこともない、ちょっと名前を聞いただけの『レニー・ブルースです』って答えたんです」

 レニー・ブルースは現在のスタンダップコメディをつくった人物だ。

「談志さんがスルーしてくれると思ったら、『レニー・ブルース? 俺は日本のレニー・ブルースだ』って言うんですよ。実は談志さんは日本で初めてスタンダップコメディをやった人だった。それで、あれこれ聞かれたんですけど、適当に答えたら全部うまいことハマって『すげえよ、上岡の弟子は』なんて流れになっちゃって」

 その後、海外でコメディーを学んだぜんじろうは日本に帰国後、再び談志さんに会ったという。
「談志師匠が亡くなる少し前ですね。点滴もされてたんですけど、『レニー・ブルースの話したの覚えてますか? 僕、あの後アメリカに行ったんです』って言ったら『アメリカ行ったのか!』って、めっちゃ興味持ってくれた。仕事が全然ないことを相談したら、『お前、アメリカ行ったんだろ? それを全部日本でやれよ。客がいなけりゃ街角でしゃべりゃいいんだ。どんどん嫌われても自分の意見言ってやりゃいい。群れんなよ。信念曲げるな』って言ってくれて。群れるなって言うのは上岡と同じでした」

 談志さんの言葉にぜんじろうは「バトンを渡された気がした」という。

「レニー・ブルースも誤解されっぱなしでした。人間はパーフェクトじゃない。欠けてる部分があるのは平等っていうのをユーモアにして言っている。僕もスタンダップコメディをして、仕事が減ったことでそれが分かった。やめたいと思ったこともあるけど、どんどん誤解され、どんどんお客さんが減って、どんどんボロボロになる姿を見てもらうのがスタンダップコメディアン。今後も社会の権力に対して、ルールのもとにガンガン風刺していきますよ」

 伝説のスタンダップコメディアンの生きざまと偉大な先輩芸人の“金言”を胸に、ぜんじろうはこれからもスタンダップコメディを続けていく。

https://news.yahoo.co.jp/articles/c61fb282faaeeb8d315d8c15bcddf00e33097556