2017.9.7 09:25

 62年ぶりに将棋のプロ最年少記録、30年ぶりに最多連勝記録をそれぞれ塗り替えた藤井聡太四段(15)。8月の棋王戦本戦で敗れ、中学生でのタイトル挑戦、獲得の可能性はなくなったものの、屋敷伸之九段(45)が保持する18歳6カ月のタイトル獲得最年少記録の更新に期待がかかる。中高一貫校の名古屋大学教育学部付属中学3年に通うが、このまま高校に進学すべきかどうか、迷っている。藤井四段以前の中学生棋士は4人。加藤一二三九段(77)、谷川浩司九段(55)、羽生善治二冠(46)、渡辺明竜王(33)は、いずれも将棋界を代表する第一人者となった。中学卒業後の進路はどうだったのか。先人達の軌跡をたどった。


【“ひふみん”は早稲田中退】

 中学生でプロ棋士になった先人たちは、みな進学している。

 引退してもなお“ひふみん”の愛称で親しまれ、テレビなどでも活躍中の加藤九段は、14歳7カ月でプロ入り。藤井四段が昨年、14歳2カ月でプロになるまで、62年にわたって最年少記録を保持してきた。28歳で当時存在したタイトル「十段」を獲得。その後、名人、棋王、王将など5つのタイトルを獲得した。

 京都府立木津高校から早稲田大第二文学部にまで進学し、後に中退した。大学進学は周囲から「広い視野を持つべきだ」と勧められたという。クラシック音楽への造詣が深いことで知られるほか、敬虔なキリスト教徒でもある。1986(昭和61)年、当時のローマ教皇から「聖シルベストロ騎士団勲章」を受章している。

【谷川九段はトラファン】

 加藤九段に次ぐ2人目の中学生プロ棋士となった谷川九段は、終盤の詰みを見逃さず一気に押し切る「光速の寄せ」が有名だ。21歳で名人位を獲得し、当時の七大タイトルをすべて獲得した経験を持つ。

 神戸市の私立滝川中学校から、私立滝川高校へ進学した(現在は中高一貫校)。当初は、対局で出席に響くと学校に迷惑をかけるため、高校進学はやめる決心だったというが、父親に進学を勧められたという。神戸で生まれ育った影響からか、プロ野球・阪神タイガースのファン。プロ野球選手との交流も深い。

【羽生二冠はチェスの日本チャンプ】

 棋聖、王座を保持する羽生二冠は、19歳で竜王を獲得。さらに、25歳ですべてのタイトルを同時に独占する前人未到の七冠を達成した。8月の王位戦七番勝負で王位を失ったが、タイトルは通算98期という歴代1位の記録で、100期の大記録を目前にしている。

 羽生二冠は東京都立富士森高校に進学したものの、学業と棋士の両立が困難を極め、都立上野高校の通信制に転入し卒業した。将棋以外でもチェス日本チャンピオンの実力を持ち、チェスで海外の愛好家らとも交流している。

 棋王位も保持する渡辺竜王は20歳で竜王位を獲得している。竜王位は通算で11期だ。ほかに棋聖、王将、王座を獲得したことがある。私立聖学院中・高校を卒業している。渡辺竜王は競馬ファンとしても有名で、オフは競馬場にもよく足を運ぶという。


 高校進学について、藤井四段は今夏、産経新聞のインタビューに「本当にまだ決まっていないんです」と述べた。「高校に行くとなると時間的な制約があるので、そこがどうか…」。対局ではいつも「勝負師」の表情で臨む藤井四段だが、中学生らしい迷いの表情を見せたのが印象的だった。

 進学という“難局”が間近に迫ってはいるが、藤井四段の棋士人生はまだ始まったばかり。大局観をもって納得のいく道を選んでほしい。

http://www.sankei.com/smp/west/news/170907/wst1709070008-s1.html