俺が3本の矢を身につけた後、最初に効果を感じたのは、近所のおばちゃん相手であった。
道でバッタリ会って話をする機会は数か月に1回程度だったが、いつも向こうから一方的に世間話を仕掛けてきて、
俺はひたすら黙ったまま、わずかにうなずくくらいしかできなかった。ひたすら苦痛だった。
なので一瞬話が切れた瞬間を狙って「あ、すいません、ちょっと・・」といって打ち切り、速足で歩き去って逃げていた。
会話持続時間は、長くてせいぜい30秒程度だった。


3本の矢を身につけた後、そのおばちゃんとの会話で、普通に5分以上続いた。
こっちからは特に何も話していない。ただ向こうが話しをするのに合わせて3本の矢を放っていただけだ。
当時はまだ3本の矢も不完全だったにもかかわらず、この成果が出たことに、自信が付いた。

そしてしばらくして、親戚のおばちゃんから電話が来た。
この人もひたすら一方的に話してくるが、こっちはひたすら無言である。電話なので無言でうなずいても意味はない。
相手から「ちょっと、聞こえてる?」と言われるたびに、「ぅん・・」と返す事しかできない。
ひたすら一方的に話しかけてくるおばちゃん相手でも、会話が続くのはせいぜい3分程度である。

それが、3本の矢で、40分以上話し続けた。電話が切れた後、通話時間を見たときは衝撃を受けた。
こんなに長時間人と話したのは、おそらく人生最長記録である。
そして相変わらず、俺から自発的に話した内容はほとんどない。内容は全て相手任せである。


この2つの出来事により、少なくとも相手側に話をする意思がある場合には、
3本の矢はとてつもない効果があるという確信を得た。