児童漫画家として出発した2人だが、安孫子さんは30代に入ると悩み始めた。
「年齢を重ねると純粋な気持ちで子ども漫画を描くのが難しくなった」。

既に作品ごとにそれぞれが描くスタイルが定着。ドラえもんの大ヒットを横目で見ながら「このままでは藤本氏のマネジャーになるしかない」と悩んだ。

そんな時、青年向けの漫画誌が登場。「ブラックユーモア」路線をはじめとした大人漫画に活路を見いだした。

「僕は人間が好きなんです」と語る。1人で海外旅行に出掛けて現地の人たちと交流したり、お酒やゴルフなどを通じ友人たちと大騒ぎするのが好き。
作家の吉行淳之介さんやタレントの大橋巨泉さん、歌手の井上陽水さんら友人も幅広く、私生活での経験を漫画に生かしたケースも多い。

アニメ作家の鈴木伸一さんは「行きつけのスナックでは、よく下手なカラオケを歌った。店のママから『ジャイアン』と呼ばれて。でも、うれしそうで、僕も楽しくなった」と語る。

想像力を膨らませ、子ども漫画を描き続けた藤本さんを「僕なんてとても及ばない天才」とたたえたが、幅広いジャンルに分け入って漫画の裾野を広げたのは、安孫子さんだからこそ。

「まんが道」は、こんな書き出しで始まる。「これはまんがの持つ不思議な魅力にとりつかれ、まんがに自分の未来を賭けて、まんが道という、終わりのない道へ踏み込んだある、ふたりの少年の物語である」。晩年までペンを握り続けた人生はこの言葉の通りだったと思う。
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