強権企業が島を支配、日本円すら流通せず…ナゾの離島「南大東島」のディープすぎる世界

離れ小島──。なんとも心を揺さぶる言葉だ。同じ日本国内にありながら、特有の歴史と生物相を持つ場所。ただし一部の観光地をのぞけば、よほどの事情がない限り行く機会がない。

「文春オンライン」編集部では、そんな日本国内の離島にルポライターの安田峰俊氏を派遣。現地をルポしてもらうことにした。まず最初の訪問地に選んだのは、沖縄県内でも最辺境に位置する元「社有島」、南大東島だ

「……人類、もしかして絶滅してないか?」

思わずそんな感想を抱いてしまった。レンタルした原付にまたがり、サトウキビ畑をつらぬく道路を走り続けて数キロ。
1人も村人に会わず、1台の対向車ともすれ違わない。建物もほとんど見かけず、道路がアスファルトで舗装されているのがかえって不思議なほどだ。冗談抜きで、文明崩壊後の社会に1人だけで放り出されたような気になってくる。

空気がすこし不穏である。数百キロ南方のフィリピン海上で台風が発達しているらしいのだ。強風のせいで、晴れているのにちょっと肌寒い。
しかもいっそう不穏なのは、路上に点々と黒い肉片が落ちていることだった。
これらはすべて体長7〜10センチくらいのヒキガエルの死体であり、路面に顔を近づけるとかすかに屍臭を感じる。

県道に入ってさらに走り続ける。サトウキビの収穫に使うらしき、戦車のような謎の銀色のキャタピラー車が放置されていた。
相変わらず住民に出会わないが、周囲は徐々にひらけてくる。

やがて「さとうきびは島を守り島は国土を守る」とスローガンが書きつけられた巨大な白い煙突を持つ工場にぶつかった。この島で最も高い建造物にして、島の産業を支える製糖会社である。

裏手には「在所」と呼ばれる、島の中心部の集落がささやかに広がっている──。

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