根強い人気を誇る30〜40年前のバイク。旧車ブームは健在だが、太平洋戦争より前、はるか昔の100年前のバイクまで、血眼になって収集する愛好家たちも実は少なくない。
「戦前車」の維持には膨大な手間暇とカネがかかるが、惜しみなくつぎ込んでいる。

エンジン再始動を1時間待つ

 見た目は自転車。ペダルをこぎ出すと、やがてエンジンがうなりを上げ、パカパカパカと乾いた音が辺りに響いた――。

 愛知県岡崎市で串焼き店を経営する加藤修さん(76)のバイク、ラージマルチ(500cc)。1世紀以上前、1912年に英国で造られたという。「戦前車」収集歴は30年以上。
県北東部・奥三河の町の店で長年、展示されていたのを知り、約20年通い続けて昨年、譲り受けた。

 加藤さんはこのほか、1914年式の英国製トライアンフなど、戦前車を中心に10台を持つ。すでに廃業、撤退しているメーカーが大半で、日常の足として使っている
「最新型」は1964年式のブリヂストンだ。

 30代の頃、かつて自転車店を営んでいた父親(故人)が英国製のバイクにまたがった姿で撮られた戦前の写真を見つけ、この時代のバイクに興味を持つようになった。

 故障しても部品がないため、鉄工所の知人に手作りしてもらっている。雨の日や、オーバーヒートしやすい暑い日は運転を控える。
エンジンが止まると、冷めるまで1時間ほどその場で待ったこともあった。エンジンを起動させるだけでも様々な操作を要する。
「だからうまく運転するには自分の腕にかかっている。それが喜び。ストレスの解消になっている」

 「リハビリに行ってくる」。朝、妻にそう言ってちょっとしたツーリングに出かけるのが日課になっている。

 1925年式のトライアンフ、26年式の英国・サンビーム、29年式の米国・ハーレーダビッドソン……。

 愛知県一宮市のアパレル会社役員加藤義親さん(63)は、30台以上を乗り継いできた。今、所有する7台のうち4台は戦前車だ。

 「戦争中の供出も逃れて現代にまで生き残ったという歴史が好きです。まさに文化遺産。今は私が所有しているだけで、いずれ次の世代へ引き継ぎたいという思いを持っています」

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