配信に客を取られる?
 まず、映画興行会社のA氏から。A氏の興行会社は、シネコンを含む複数の劇場を運営している。興行会社からすれば、「劇場公開と同時に配信」は、映画館の利益を“損ねる”ことになる。

「事実から申し上げると、2020年7月17日の劇場公開と同時にAmazonプライム・ビデオで配信された『劇場』(監督:行定 勲)は、興行が大苦戦しました。主演の山崎 賢人さんは若者に引きがあります。
言い換えれば、同作はそれなりにITリテラシーがあって配信で映画を観ることに抵抗がない人たちに支えられている作品なので、『配信で観られるなら配信にしよう』と考えた人が多かったのでは。また、
本作に限らず配信限定作品の劇場公開も、数字は芳しくありません。『ちょっと時間が空いたから、観てみようかな』という映画館の利用動機は、配信の利用に置き換わってしまったと言えると思います」(興行会社・A氏) 

 ただ、配信が興行に好影響を与える場合もある。シリーズものの最新作が公開される前に、過去作を一括配信する場合などだ。それによって、一見さんが最新作を観る環境が整う。これは長らく、TV地上波が果たしていた役割でもあるが……。

「コロナの前だったら、その好影響は体感できました。配信と劇場が共存共栄だったんです。だけど今は、配信に客を取られているという感覚のほうが強い。ユーザーにとって、長期間家から出られない時に何が助けてくれたかと
言ったら、NetflixとAmazonプライムなんですよね。定額見放題だし、この1年の生活習慣としてかなり根付いたので、多くの人が『映画はもう配信でいいや』という気分になってしまっている。なにより安価ですから、
今は新作を映画館で観ることが“冒険”になっちゃってるんですよ。おもしろいかどうかわからないものに1900円も払えないよ、と。だからこそ映画館側は、映画館で映画を観るという原点に立ち返り、価値を創出していかなければなりません」(興行会社・A氏)

https://www.sbbit.jp/article/cont1/53403