シューベルトの「魔王」の一部を、ドイツ語で歌った時より日本語で歌った時の方が飛沫(ひまつ)の数は少なく飛ぶ距離も短かった―。
信州大教育学部音楽教育コースの斉藤忠彦教授(56)が近く、こんな実験結果を日本音楽教育学会で発表する。
あくまでプロの男性声楽家1人による比較で飛沫数には個人差がある、としながらも「日本語は飛沫が少ない言語の可能性がある」と推測している。

 7月、空気中のちりなどが撮影できる微粒子可視化システムを備えた新日本空調(東京)のクリーンルームで実験。
信大准教授でバス・バリトン歌手の田島達也さん(53)が魔王の冒頭の語り手パート18小節を約30秒歌い比べた。
粒径0・5マイクロメートル以上の飛沫の数は日本語が少なく、最大飛距離は日本語が約0・6メートルなのに対し、ドイツ語は1メートルだった。

 田島さんの発声で日本語の仮名を発音した時の飛沫の数や勢いの違いも調べた。
「か」「た」「て」「と」「だ」「ど」「ぷ」「ぺ」「ぽ」の発声で比較的勢いのある飛沫が見られ、その他の多くの仮名では目立たなかった。
「あ行は飛沫が飛びにくい。日本語は母音のあ行を含む発音が多いから飛沫が飛びにくいのかもしれない」と斉藤教授。

 プロとアマチュアでも違うのか―。声楽家の女性とそうでない女性が童謡「富士山」の後半部を歌ったところ、
声量はプロが上回ったが、飛沫数はアマチュアの方が多かった。
「飛沫は声が大きいと多いとも限らない。声の出し方などで個人差がある」とみている。

 これらの実験は学校教育での合唱指導の参考になるデータを得ようと、
不織布マスク、ガーゼマスク、布が胸元まで垂れた合唱用マスク、フェースシールド、
マウスシールドをそれぞれ着けた場合の飛沫の飛び具合の差を調べるのに合わせて行った。
この調査では、何も着けずに歌った場合に出る粒径0・5マイクロメートル以上の飛沫数を100%とすると
フェースシールドは56%と最も捕捉力が弱く、不織布マスクが10%と最も高性能。
ガーゼマスク、合唱用マスクはともに29%、マウスシールドは28%だった。

 斉藤教授は「フェースシールドは飛沫の拡散防止には向かないと実感したが、かといって不織布マスクも息苦しい。
マスクを活用しつつ短い曲を選んだり、大きな声を強いたりせず無理なく人と声を合わせる喜びを味わえるといい」。
一連の調査結果について「データは少ないものの、興味深い内容が出たと思う」としている。

日本語は飛沫少ない? 「魔王」ドイツ語と歌い比べ 信大教授実験
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