「ダムによらない治水」進まなかった球磨川

 熊本県南部などを襲った豪雨。氾濫した球磨(くま)川は、「日本三大急流」として知られ、
過去にも水害に見舞われたことから「暴れ川」の異名も持つ。流域の治水対策をめぐっては、
昭和40年まで3年連続で起きた水害を機に治水ダム計画が進んだが、地元の反対を受けて中止された。
その後、国や流域自治体、地元住民で治水対策を協議し続けてきたが、抜本策が打ち出せないまま
今回、想定を上回る甚大な豪雨被害が起きた。

 球磨川は熊本県水上村の源流から人吉盆地、八代平野を経て八代海に注ぐ全長115キロの
1級河川。流域の年間平均雨量は全国平均の約1・6倍の2800ミリで、本流と支流の合流点に
あたる人吉市中心部や球磨村渡地区は、洪水の危険性が以前から指摘されていた。

 熊本大の大本照憲教授(河川工学)は、今回は本流と支流双方が同時に増水し、異常出水に
つながったと分析。「人吉市街地では急速に水が流れ込み、避難できないほどの流速だった
可能性がある」とする。

 だが、流域での治水対策は進んではこなかった。国土交通省によると、球磨川流域では
40年7月に大規模な水害が発生。翌41年、国は球磨川支流の川辺川に治水を目的とした
ダムの計画を発表した。

 しかし、地元の反対などで事業は進まず平成20年、蒲島郁夫知事が計画反対を表明。
翌年、民主党政権が計画を中止した。その後、国や県、流域自治体が堤防かさ上げや
川底の掘削などの治水策を協議してきたが、議論はまとまらず、ダム計画も廃止されていない。

 「ダムによらない治水を目指してきたが、費用が多額でできなかった。非常に悔やまれる」。
蒲島知事は5日、報道陣の質問にこう述べた。国交省九州地方整備局は球磨川の
国管理流域だけでも11カ所で氾濫、人吉市中神町で堤防1カ所が決壊しているのを確認している。

 大本教授は「ダム以外にも田畑など『安全弁』となる氾濫地帯をつくるなど、人的被害を
最小化するため流域全体での治水対策を早急にとる必要があった」と指摘している。

https://www.sankei.com/west/news/200707/wst2007070043-n2.html