毎月勤労統計の調査方法変更を巡り、厚生労働省が二〇一五年に開いた有識者検討会の委員の一人が本紙に
「変更はハードルが高いという慎重な意見が多かった。議論が尽くされぬまま検討会は立ち消えになった」などと証言した。
中間整理では「引き続き検討する」とされたが、検討会はその後開かれず、
一七年に厚労省の申請通り総務省の統計委員会が変更を決定した。 (井上靖史)

 厚労省が学識者やエコノミストら委員六人を集めて開いた
「毎月勤労統計の改善に関する検討会」は一五年六〜九月に六回開かれた。
アベノミクスによる賃金の動向に注目が集まっているとして、サンプル事業所の入れ替え方法などを検討した。

 同調査は当時、従業員四百九十九〜三十人規模の対象事業所について二〜三年に一度全て入れ替えていた。
途中で廃業する企業は調査から外れるため、徐々に平均賃金は上がる傾向があり、入れ替えた直後に下がりやすい。
検討会では、入れ替え前後の段差を縮めるため、毎年一部を入れ替える方法への変更の可否を話し合った。

 委員らは差が縮まることは評価する一方、実務を担う自治体代表の千葉県職員の委員が難色を示した。
説明会の回数を増やさなければならないなど事務の負担増を懸念していた。

 座長代理を務めた横浜市立大データサイエンス学部の土屋隆裕教授は取材に
「サンプルの回収が進まなければ調査が成り立たないこともある。最終会合ではさらに検討が必要という意見が多かった」と指摘する。

 しかし、厚労省はその後検討会を開かないまま調査方法の変更方針をまとめ、
総務省統計委員会に申請し、認められた。一八年一月からサンプルを毎年一部を入れ替える方法に変更した。
新たな方法では段差が縮まるが、廃業の実態を反映しにくく、強い企業の実態ばかりを映しかねないとの指摘もある。
同時に計算基準も変えたため、賃金の伸び率が実際よりも過大に出る一因となった。

 
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201902/CK2019021002000118.html
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