沖縄タイムス [大弦小弦]のんびり行くための競争、というものがある

のんびり行くための競争、というものがある。
本土に出掛けると、駅のエスカレーターで遭遇する。急ぐ人のために片側を空けるのが暗黙のルール。
ところが、立ち止まって乗る側に押すな押すなの大行列ができていることがある

▼結局、階段を使う。あるいは、急いでもいないのにエスカレーター上を歩く。事情を知らないお年寄りや外国人が前をふさいでいると何だかほっとする。
と同時に、後ろの人の視線が気になる。小さいことながら、気持ちはかなり揺れ動いている

▼歩くことで接触、転倒事故が起きる。半身が不自由で片側の手すりしかつかめない人もいる。
最近は、鉄道会社が2列とも立ち止まって利用するよう呼び掛けている。警備員が直接注意するところもある

▼片側を空けるのが効率的とも言い切れない。毎日新聞(25日付)によると、350人が通り抜けるのにかかる時間の分析で、2列で立つ方が片側を空けるより早いという結果が出た

▼弱者も移動しやすい手段として登場したはずのエスカレーター。いつの間にか、強者の論理が支配していたのではないか

▼強者だけが先を急ぎやすい仕組みから、多様な全員が安心して前に進める仕組みへ。社会全体も変わっていけたらと思う。
駆け足でなくても、立ち止まって乗るエスカレーターのようにゆっくりでもいい。(阿部岳)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/365980

阿部 岳(あべ たかし)
沖縄タイムス社北部報道部長
1974年東京都生まれ。上智大学外国語学部卒。97年沖縄タイムス社入社、政経部県政担当、社会部基地担当、フリーキャップなどを経て現職。
著書 国家の暴力 現場記者が見た「高江165日」の真実(朝日新聞出版)。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/70787
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