ミスチルの受賞は全く想定外、現場は大パニック

もう1つの大事件が、私が番組プロデューサーを務めていた1994年の第36回に起こった。この年は大賞をMr.Childrenの「innocent world」が受賞したが、事前の下馬評では、trf(現:TRF)か、藤あや子だった。
だから、ミスチルは当日出演がかなわず現場不在。過去35回、出演しない歌手が大賞を獲ったことは一度も無く、番組サイドとしては、ミスチルが受賞することは全くの想定外であった。

大みそか、これも生放送中に同時進行の最終審査会、私は事務局のプロデューサーとして審査会に参加していたが、何と大賞に選ばれたのはミスチル。出演しようがしまいが、この年を代表するのは「innocent world」だろうというのが審査委員会の総意であった。
結果を現場に伝える私としては、この結果を番組制作の本部や現場に届けなくてはならない。果たしてこの結果を現場に伝えていいものか自問自答するぐらいの驚きであった。私は結果を書いた紙を、さっと本部に渡してその場に居られずすぐにその場を去った。

私の背中越しに「なんだこれはー!」という声が聞こえてくるほどの現場は大パニック。なにしろ大賞受賞者が居ないのだ。

21時までの生放送で、20時過ぎからスタッフたちは、「どうもミスチルは今オーストラリアに居るらしい」という情報から、シドニーやメルボルンなどのホテルに片っ端から電話したらしい。
レコード会社や事務所も受賞を想定してなかったが、結局本人たちは見つからず、レコード会社の上の人が代理受賞をして、PVを流して放送は終了した。

しかし現場は混乱したが、よくレコード大賞は出来レースでしょうと言われる中、ガチでやってるという何よりの証拠であり、本当にふさわしい曲が選ばれるという権威と意義を示すことができたと思う。

ちなみにミスチル本人たちも受賞したのに出演できなかったことを覚えていてくれたのか、その10年後、「Sign」で再び大賞を受賞。この時は会場のステージで最高のパフォーマンスを披露してくれた。