「前年王者」が不可解な引退

SGレーサーのXはなぜ引退したのか。その「真相」は、すでに多くの関係者が知っている。

(前の記事『【競艇不正】「八百長は西川だけ」…競走会の見解に、八百長で服役した元トップレーサーが抱いた「強烈な違和感」』では、元競艇選手の西川昌希氏以外の不正を認めようとしない、競走会の問題点を西川氏が指摘した。だが、競艇の世界では、いまも不正を行ってもなお逃げ切ろうとしている選手が多数存在しているという。競艇界のウラの事情を隅々まで知り尽くした西川氏が、その詳細を打ち明けた。)

Xはレース前に毎日実施される体重計測の際、重量物を隠し持って体重計に乗っていたことがバレ、それを公表しないことを交換条件に、褒章懲戒審議会(違反や不正があった場合の処分を決定する審議会)の前に自ら引退したのだ。

トップクラスのレースでは、体重が1キロ、2キロ違えばエンジンの出足、伸び足に大きな差が出る。Xはもともと体重が軽く、規定で定められた男子選手の最低体重(52キロ)に満たなかった。

体重は基本的に軽いほど有利だが、選手が際限なく体重を絞り健康を害することを防ぐために最低体重が設定されている。52キロに満たない選手は重量調整のベストを着て、52キロで出走することが義務付けられている。

最低体重に満たない選手が装着を義務付けられるオレンジベスト。0.5キロの重りで体重調整する最低体重に満たない選手が装着を義務付けられるオレンジベスト。0.5キロの重りで体重調整する
だがXは体重計測の際、通勤着(選手用の指定ジャージ)の内側に重りを入れて体重を52キロまで増やし、レースでは軽い身になってエンジンを噴かせていた。何ともセコイ話のようだが、これで勝率が相当上がり、優勝賞金3300万円のSG優勝につながったとすれば立派な「犯罪」だと俺は思う。

実力者には何も言えない

業界では2017年、まったく同じようなことをしていた20代の女子選手が唐突に引退したことがあった。女子の場合、最低体重は47キロ(現在)だが、男子と比べ最低体重に満たない選手の割合が相当多いため、ベテランを中心に体重不正が横行しているのは有名な話だ。

だが多くの女子選手は人間関係の悪化を恐れたり、密告することによって他の体重不正選手から嫌がらせを受けたりするリスクを嫌い、見て見ぬふりをしている。体重が軽い選手ほどエンジンを噴かすので、成績が良く、現実問題として業界の実力者として君臨していたりするから厄介だ。

いずれにせよ、Xが引退なら、この業界には引退しなければならない選手が他にも数えきれないほどいる。

今回引退したXは「潔く引退したのでまともな人」という評価も業界内にあるようだ。だが、相当以前から同じことを続けてきたのだろうから、まともでもなんでもない。そして、不祥事を公表せずひっそりと引退させる競走会はもっと問題だ。引退を受理する前に処分をして、公表するのが筋だろう。

Xに関して言えば、俺には1つの疑問がある。というのも、Xが引退直前に「即刻帰郷」処分になった形跡がないことだ。

業界ぐるみで「隠蔽」の可能性

選手はレースのある日、真っ先に体重測定を済ませるが、そこで不正が発覚すれば当然、レースに出場することはできず、その場で「帰郷」が命じられる。「帰郷」といっても別に自宅に帰る必要はないが、レース場からは出て行かなくてはならない。当然、その後は処分を待つことになる。

ちなみに前述の引退した女子選手の場合、不正が発覚した瞬間に即刻帰郷となっており、すでに発表されていたその日のレースは「欠場」扱いとなった。普通であればそうなるはずだ。

体重はレースの結果に大きな影響を持つ体重はレースの結果に大きな影響を持つ
レース後に体重不正が発覚するということはほぼないはずなので、Xの場合はおそらく隠し持っていた重量物を没収したうえで再度体重を計測し、とりあえずレースを走らせたとしか考えられない。

不正選手を認知しながらレースを走らせたとすれば、これは大問題だ。面倒なことになる事案が起きたため、つい処分を後回しにした可能性は十分考えられるが、「不都合なことはすべて隠蔽」がまかり通っている世界だけに、その可能性は非常に高いと俺は思っている。

https://gendai.media/articles/-/108313