日比谷・帝国劇場で上演されているミュージカル「SPY×FAMILY」を観劇した。原作は遠藤達哉の人気コミックで、既刊10巻で累計発行部数2900万部を突破。「呪術廻戦」や「ONE PIECE」と並ぶ大ヒット作品だ。昨年、アニメ化されたことで、人気は拡大。このたび、ミュージカルとなった。

 世界平和のためにスパイになった男、コードネーム「黄昏」が、任務遂行のためにかりそめの家族を作るが、娘は人の心が読める超能力者、妻は「いばら姫」の異名を持つ殺し屋。お互いにその正体を隠したまま偽りの家族になるという、コメディータッチのストーリーだ。

 原作が面白く、はたしてそれがミュージカルとして成立するのかどうか。漫画ファン、アニメファン、両方を納得させるような作品になっているのか。観劇前はドキドキだったが、その心配はなく、十分に楽しめた。

 私が見た回のキャストは「黄昏」こと精神科医ロイド・フォージャー役を森崎ウイン、妻・ヨル役を唯月ふうか、娘・アーニャ役を池村碧彩というキャスティング。なんといってもこの作品はアーニャにかかっていて、4人のアーニャ役がオーディションで選ばれている。

 中でも池村碧彩ちゃんは、NHK朝ドラ「おかえりモネ」でヒロインの子供時代を、現在放送中の大河ドラマ「どうする家康」では家康の長女・亀姫を演じるなど、まさに注目すべき子役。今回が初舞台ということだが、さすが3歳からやっているだけあって、堂々の演技で可愛さ満点のアーニャだった。

 東京は3月29日に千秋楽を迎えたが、その後は兵庫県立芸術文化センター(4月11日〜16日)、福岡博多座(5月3日〜21日)で上演される。

 ところで昨今、この「SPY×FAMILY」のように、漫画原作が舞台化されることが多くなったように思う。以前もあるにはあったが、それは「テニスの王子様」や「刀剣乱舞」など、いわゆる2.5次元とされる舞台やミュージカルと呼ばれるもので、別物のイメージだった。

 それが「スーパー歌舞伎 ワンピース」や「NARUTO-ナルト-」序幕、「風の谷のナウシカ」、さらには、ゲームにまで手を広げ、「新作ファイナルファンタジーX」などが上演されている。歌舞伎以外でも今年に入り、「進撃の巨人」「キングダム」が舞台化され、4月に開業される「東急歌舞伎町タワー」のこけら落とし公演として、5月には「舞台・エヴァンゲリオン Beyond(仮)」が上演される。

 どうして漫画やアニメ、ゲーム原作の舞台化が続くのか。それは集客とグッズの売り上げに尽きる。始まる前に大行列ができていて何かと思ったら、限定グッズを求めての、長蛇の列。これは通常のミュージカルでは見られない光景だった。

 コロナ禍で中止を余儀なくされた舞台もあり、この4年間の興行収入がどれだけマイナスになったかは計り知れない。その損失を漫画、アニメ、ゲームの原作で取り戻そうという戦略ではないか、と。

 ジャパンアニメは海外でも大人気。映画の興行収入を見ても、今や上位はアニメ作品ばかり。伝統を重んじる歌舞伎界も背に腹は代えられぬ、か。

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