2023/3/11 10:00

大竹 直樹

《東京12チャンネル(現テレビ東京)で昭和51年から放送された「日曜ビッグスペシャル」。勢いに乗る伊藤ディレクターは「いじわる大挑戦」というバラエティー枠に携わると、元プロボクサーでコメディアンのたこ八郎さんを起用し、〝攻めた企画〟を次々と打ち出す。最たる例が「たこ八郎に東大生の血を輸血するとIQ(知能指数)は上がるのか」だった》

今なら、たこ八郎さんに輸血するっていう企画はとてもできませんよ。いや、当時もダメだったんです。なぜダメかというと、病気で手術するというときに輸血するんであって、意味もなく輸血しちゃいけないんです。

だけど、そのことを俺たちは知らない。テレビ局も知らないじゃないですか。で、放送が終わった後、クレームが来ましたよ。でも、それも大したクレームじゃなかったんじゃないかな。いちばん好きな番組でした。たこ(八郎)ちゃんとの出会いもこの番組でしたね。

彼は「パンチドランカー」のふりをしていたと思うんですよ、キャラクター作りで。実はIQも高かったし、すごく優秀だったと思ってるんです。彼が住んでいた新宿のアパートに行ったことがあるんですけど、紙が飾ってあって、「これ何?」って思ったら、ギャラ(報酬)がちゃんと入金されているかどうか書いてあったんです。

社会現象に対してもね、例えば「あの事件、どう思います?」って尋ねますでしょ。そうすると、ほんとにすごいコメンテーターのようなコメントを返してくる。そういう人なんです。

《たこ八郎さんは〝天然ボケ〟のキャラが受け、一躍人気者になった。番組では、たこ八郎さんに東大生の血を輸血しても、両手に持った紅白旗を正確に上げることはできなかったと〝検証〟された》

間違えて旗を上げるんだけど、それはもちろん、分かってやってるんですよ。輸血して正解率が上がったら面白くないじゃないですか。逆に、輸血後はもっとひどくなるんですよ。「なんだ、東大生の血を輸血してもひどくなるだけじゃないか」っていう方が笑えるじゃないですか。彼は「どうしたらいいか」なんて俺には聞かないんです。ただ、どっちが最善の答えか、ということが瞬時に分かるんですよ。センスは抜群。だから天才ですよ。

全身に金粉を塗ったたこ八郎さんがマラソンするという企画もやったんですけど、最後、皮膚呼吸ができなくなって倒れちゃうんです。そしたら彼は一言、「人類みな兄弟」ってコメントするんです(笑)。なんでもないんですけど、その一言が面白いんですよ。その言葉、どっから持ってきたのって思うんです。全く関係ないのに、それ言われちゃうと、その通りだなって。

とにかく個性が強かったですね。彼はいつも脇役だったけど、俺は番組の総合司会にしたかったんです。演出家は「面白い」が優先なんですよ。今でもたこ八郎さんが生きていれば、NHK紅白歌合戦の総合司会なんて面白いよね。

《たこ八郎さんは60年7月、飲酒後に海水浴をし、44歳で亡くなった。心臓まひだった》

真鶴(神奈川県)の海でね。たこちゃんね、こんな思い出もありますよ。特番の収録ってだいたい午後1時くらいから始まるんですけど、俺たちはセットを組んだり、照明を準備したりしますから午前8時半くらいからスタジオに入るんです。そしたら、たこちゃんがスタジオで寝てるんですよ(笑)。

彼は「朝まで飲んでたから」って言うんですけど、俺はこれも演出だと思ってるんです。家に帰ればいいのに、スタジオで寝ちゃったら伝説になるじゃないですか。かっこいいでしょ。そういう人だったんですよ。(聞き手 大竹直樹)

https://www.sankei.com/article/20230311-KUCJ4SIXGZJW3FIZOV5J5RITMI/