大沢瑞季

毎日新聞 2022/9/2 東京夕刊

 1500本以上の映画の字幕翻訳を手掛けながら、来日したハリウッドスターの通訳をしてきた戸田奈津子さん(86)が大きな転機を迎えた。7月、通訳の引退を表明したのだ。半生を振り返りながら、決断に至る胸の内を語ってくれた。

 お会いしたのは、強い日差しが降り注ぐ真夏日。戸田さんはそれをものともせず、白色のシャツとパンツ姿で爽やかに決めて現れた。背筋はシャキッと伸びている。「もうこの年ですから。80代まで通訳を続けるって聞いたことある? ないでしょ? やっぱり潮時だと思ってね」。引退について尋ねると、開口一番、戸田さんは笑いながらチャキチャキと答えた。

 一線を退くことを明かしたのは、86歳の誕生日である7月3日。字幕を手掛けたトム・クルーズさん主演の映画「トップガン マーヴェリック」の関連イベントに登壇した時のことだった。「この年になって100%を欠き、即座にうまく通訳できなかったら、いつも200%の力を出す努力をしているトムに申し訳ない」。クルーズさんのビデオメッセージの通訳をしたこの日が最後の仕事となった。

https://mainichi.jp/articles/20220902/dde/012/200/011000c