2022年7月21日 8時0分スポーツ報知 # 社会# 社会コラム# 話題

 いまだにこんな形で自分の言わせたいことを取材対象者が口にするまで、しつこく質問し続けるメディアがあるのか―。そんなことを思ったテレビ朝日系「報道ステーション」スタッフの取材姿勢だった。

 20日、東京・内幸町の帝国ホテルで行われた第167回芥川賞・直木賞発表会見。芥川賞の受賞者は「おいしいごはんが食べられますように」(群像1月号)で2度目のノミネートでの受賞となった高瀬隼子さん(34)。新型コロナ禍のため、選考会の行われた東京・築地の料亭「新喜楽」と約100人の記者の集まったホテル宴会場をリモートで結んでの会見が行われた。

 食べ物を軸に職場の人間関係を描いた高瀬さんの作品について、選考委員を代表してリモート画面に登場した川上弘美さん(64)は「高瀬さんは最初の投票から過半数を取りました」とダントツの評価での栄冠だったことを明かした上で「職場、あるいはある人数の中での男女関係、人間関係を立体的に描き得ている作品。いかに書くかと言う技術が非常に優れていると評価されました。人間の中にある多面性が非常にうまく描かれていた」と評した。

 各新聞、テレビ局の報道、文芸記者による川上さんへの質疑応答の最後に、私が違和感を覚えた一幕が起こった。

 司会者の「次が最後の1人です」という声かけに手を挙げてスタンドマイクの前に立った女性は「テレビ朝日『報道ステーション』の〇〇と申します」と名乗ると、こう聞いた。

 「高瀬さんの作品は選考の過程では、どんな世相を反映しているという議論があったのでしょうか?」

 この質問に川上さんは「どんな世相?」と思わず戸惑いの声を漏らした後、「そういう論じられ方はしませんでした。選考委員は小説をそういう形では読まない。選考の場では、もっと小説自体を論じるような気がします。ごめんなさい。一言でバッと言えるようなことは今は言えません。良かったら(後で)選考委員の皆さんの選評を読んで下さい」

 だが、さらに女性は聞いた。

 「今の時代に高瀬さんの作品が選ばれた意味は?」―

 「世相」を「時代」と言い換えた形の質問に川上さんは「先ほども言いましたように、どの小説も今を書いているんですよ。高瀬さんが今を書いたから選ばれたのではなく、どの小説もそれぞれの作家の今、それぞれの作家の見た現在を書いている。それが自身の作家性と有機的に絡み合って小説ができてくると思う。ですから、ごめんなさい。だから、高瀬さんがこういう世相を切り取っているから受賞したんだとは、どうしても言えません」

 川上さんが2度「ごめんなさい」と謝りながら説明したにも関わらず、女性はさらに聞いた。

https://hochi.news/articles/20220721-OHT1T51006.html?page=1