2021年7月25日
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少年漫画の定石に囚われない作風により、『週刊少年ジャンプ』の新たな歴史を切り拓いた傑作『チェンソーマン』。発行部数1100万部を突破し、テレビアニメ化も決定するほど高い人気を誇っている同作だが、連載当時からもっとも多かったのは「新しい」という感想だった。一体どんな要素がそれほどまでに人々を驚嘆させたのだろうか?

「チェンソーマン」の新しさを考える上で、絶対に外せないのが暴力的描写だ。作者・藤本タツキはその個性を物語の冒頭から惜しみなく披露していた。第1話では主人公・デンジがチェンソーの悪魔・ポチタと契約し、デビルハンターとして働いていることが明かされる。そしてある日、ゾンビの悪魔が仕掛けた罠によってバラバラ死体にされてしまうのだが、ポチタとの融合で復活を果たし、チェンソーで敵を切り刻んでいく。

紙面では人体が次々と欠損し、勢いよく吹き飛んでいく様が展開。1ページあたりの流血量も半端ではなく、ハードなグロテスク描写に満ちている。表現規制が厳しくなっている昨今において、連載開始早々にこのような展開を盛り込むのはかなり挑戦的だと言えるだろう。

さらに第1話では、もう1つの斬新な設定を読み取ることができる。それは他でもないデンジの設定だ。一般的に漫画の主人公は、誰もが共感できる人物像を目指すことが多い。しかしデンジの場合は、父親が残した借金を返済するためヤクザの使いっぱしりをしているどん底のマイナス地点からのスタート。まともな教育はおろか、日々の食事すらまともに食べられず、借金の返済に明け暮れている。これほどまでに闇の深い設定は、数あるジャンプ作品の中でも異色としか言いようがない。

「ジャンプ」のスローガンなんて関係ない!? 欲望に忠実な主人公

さらに、このようなどん底の環境が幼少期から続いていたためか、デンジの人格にも変わったところがある。ジャンプ漫画のスローガンは「友情・努力・勝利」と言われるが、デンジには決定的に「友情」が欠落していたのだ。

デンジはゾンビの悪魔を打倒した後、マキマに拾われて公安のデビルハンターとなる。そして「公安対魔特異4課」に所属し、さまざまなメンバーと接するのだが、物語序盤は友情や仲間意識をまったく理解できていない。仲間の死に対しても、「別に?」「敵に復讐とか暗くて嫌い」と、共感性の低さを見せていた。

その代わりにデンジを突き動かしていた動機は、自らの欲望(性欲)。誰かを助けるために悪魔を倒すのではなく、「悪魔を倒せば胸が揉める」「キスができる」といったご褒美のために戦っていく。

『鬼滅の刃』や『僕のヒーローアカデミア』など、ジャンプ作品に登場するヒーローたちは「誰かを守る」「助ける」といった目的で悪に立ち向かうことが多い。だからこそ、自らの欲望のために悪と戦うデンジはジャンプ読者たちに驚きをもって迎えられたのだろう。

「チェンソーマン」は第1部が完結を迎えたものの、第2部の再始動が予告されている。おそらくは今後、日本を代表する「ダークヒーロー作品」になるのではないだろうか。歴史の証人として、今後の展開をしっかり見守っていきたい。