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2020.11.24

『鬼滅の刃』ファンにもぜひ見てほしいと時代劇研究家が語る時代劇作品があるという。それは『十三人の刺客』だ。なぜこの作品が鬼滅ファンにおすすめなのか? コラムニストで時代劇研究家のペリー荻野さんが解説する。
中略

こうした現象を見て、時代劇研究家として感じたのは、『鬼滅の刃』ファン、特に若い世代は、時代劇で泣いたことがあったろうか?ということだ。『鬼滅の刃』は大正時代を舞台にしたダークファンタジーなので、江戸時代の話が多い時代劇とは雰囲気も、技も根本的に違うのだが、命を断ち切る切なさ、相手との関係性で泣ける時代劇はいろいろある。11月28日にNHK BSプレミアムで放送される『十三人の刺客』もまさしく「泣ける時代劇」として有名な作品だ。

始まりは、明石藩の家老が藩主・松平斉継(渡辺大)の暴君ぶりを訴えて割腹自決したこと。斉継は将軍の弟。絶対権力の身内であることをいいことに多くの人を泣かせている。近く老中就任が決まっており、このままでは天下万民が苦しむと危惧した筆頭老中・土井(里見浩太朗)は、御目付役・島田新左衛門(中村芝翫)に斉継暗殺を指令。新左衛門が密かに集めた刺客たちは、中山道の宿場町を丸ごと改造し、斉継の大名行列を追い込んで死闘を繰り広げる。

重要なのは、斉継の守りのリーダーが、新左衛門の親友であり、剣のライバルでもある鬼頭半兵衛(高橋克典)であることだ。鬼のような藩主でも守らなければならない半兵衛は、部下たちを巻き込んで親友と殺し合うことになるのである。二人の知力を尽くした攻防はすさまじい。

『十三人の刺客』のオリジナル映画が公開されたのは、昭和38年(1963年)。この映画については、さまざまな逸話がある。お蔵入りになったある映画の穴埋め作品であったこと。よって、ギャラの安い俳優陣を予定されたが、あまりに脚本が優れていたため、トップスター片岡千恵蔵が新左衛門役をやると申し出たこと。終盤の殺陣シーンは日本映画史上最長といわれることなどなど。当時、それほどヒットしなかったのに、今も映画ファンのアンケートでは上位に入り、映画、ドラマ、舞台と何度もリメイクされている。

こうした逸話について、私は、オリジナルの脚本を手がけた故・池宮彰一郎さんに取材した。印象的だったのは、当初は十三人が刺客になった「事情」を各々細かく書き込み、脚本は膨大な量になったという話だ。出征経験者である作者が、理不尽ともいえる戦いに挑む事情、痛みを描いたからこそ、この作品は泣ける。時代劇に親しんだことのない人にも、おすすめしたい。