8/20(木) 12:06配信
スポーツ報知

刀を持つとインタビュー中の柔和な表情からは一変、真剣そのものな坂口拓(カメラ・橘田 あかり)

 お蔵入りしていた一本の映画が21日、10年越しに日の目を見る。昨年、映画「キングダム」の“ラスボス”、左慈(さじ)役でも注目された俳優・坂口拓(45)が主演した「狂武蔵(くるいむさし)」(下村勇二監督)。主人公・宮本武蔵役の坂口が77分ワンシーン、ワンカットで588人を斬るという型破りの時代劇。CG、合成が撮影で多用される中、あえて身を危険に置く理由を「芝居にはリアルがあって、アクションにリアルが追求されないのはおかしい」と疑問をぶつける。(内野 小百美)

 9年前、坂口主演の「剣狂(けんきち)」という映画の撮影が、出資サイドの都合で中断になった。そこには10分間、斬り合うシーンがあり、1年間かけて皆で準備していた。「絶対、無駄にしたくなかった」。苦肉の策で浮かんだのがワンシーン、ワンカット。撮り終えると77分になっていた。今回、冒頭とラストに新たな撮影を加え“新作”としてスクリーンに。しかし無謀な人だ。

 「共演者には刀で俺の目を突いてきても、どたま(頭)かち割ってもいい、絶対遠慮するな、と伝えた。開始5分で右人さし指を骨折。指が変な方向に曲がって皮膚から骨が出ていた。でも、やめるわけにいきませんよ。最終的に588人斬っていた」

 なぜそこまでやるのか。撮影技術は進歩し、映画界も安全が優先される昨今。坂口は、秀でた身体能力をスタントマンのような影武者的な役割で生かすのではなく、表現者でありたいと思った。ある疑問が膨らんだからだ。

 「演技にはどこまでもリアルを求めるのに、アクションにはリアルが存在しない。実際の侍は立ち回りで見えなど決してきらない。僕の中での戦いのルールは3点。斬る相手への思いやり、リスペクト、けがをさせない。この状況下なら映画の中で殺し合っていい、と考えてるんで」

 一歩間違えば命にかかわる大けがを招く。「去年は肋骨(ろっこつ)5、6本折った。今年の目標は骨折しないことですね」と苦笑しながら話す。使命感を背負ったような生き方。意外にも、原点に失恋が関係している。金沢市で育った。高校卒業後は1年間、ペットショップで働いていた。

 「犬が好きで。両親に少し親孝行しながら一生そうやって過ごすのかな、と。でも女性に振られて…。何をするにも自分に自信がなかった。夢を描くことの素晴らしさすら知らなかったんですよ」

 人生何で変わるか、本当に分からないものだ。この失恋で「不思議ですが、いきなり俳優になろうと決意していた。啓示というか。イジイジした自分を打開できる、と思ったんでしょうね」。

 アクションの道に進んだ理由も偶然によるもの。「たまたま、おふくろが真田広之さんのファンだった影響もあり、アクションが気になってJACがいいかなと。でも石川県から見ると、東京ってものすごく怖いところに見えてましたよ」

 現在に生きる侍の素顔は、意外と茶目(ちゃめ)だったりする。「でも、どれだけ鍛えても昔の侍には勝てませんよ。強さだけ比べれば人間は退化した。常にいつ死ぬか分からない覚悟や恐怖をはねのける精神を持って生きている人たちとは比較にならないです」

 たとえそうであっても、今の生き方に妥協したくないという。「そこに少しでも近づこうとすることが、日本の文化を残すことにもつながってるんじゃないか。新しい『アクション道』を求めて。どこまで答えが出るか分からない。たぶん、こんな変わったやつ、一生出てこないでしょうけどね」。人懐っこい笑顔を見せながらの受け答え。しかし、写真撮影で刀を渡されると、まとう空気までも一瞬にして変えてしまう人だった。

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全文はソースで
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