櫻井翔主演の『家族ゲーム』(2013年 フジテレビ系)が再放送されている。

 裕福そうな一軒家に住む4人家族(板尾創路、鈴木保奈美、神木隆之介、浦上晟周)は傍からは満ち足りているように見えて、実は……。彼らの偽りの数々を家庭教師・吉本荒野(櫻井翔)が暴いていく。小市民一家を翻弄していく櫻井翔は神か悪魔か? 謎めいた、ぬけぬけとした身振り手振り、語り口の鮮烈さがドラマを牽引する。

 原作は、1981年、すばる文学賞を受賞した同名小説で、翌82年単行本発売になると、テレビ朝日系で鹿賀丈史主演の2時間スペシャルとしてドラマ化、TとUが制作された。83年には、森田芳光監督、松田優作主演で映画化、さらに長渕剛主演で連続ドラマ化(TBS系)される。これだけ続けざまに映像化されたということはかなりの注目作だったと想像できる。映画は映画業界で高く評価され数多くの映画賞を受賞、連ドラは高視聴率で、オリジナルの続編まで制作されたほどだった。

 それから30年を経て4度目の映像化がされるのだから、一過性のものでなく原作に普遍性があったということだろう。同じ原作を使用しても、各作品、家族の分断を描いている点は同じながら、住んでいる家の形状、家族の性別、性質、家庭教師のキャラクターなどは作品ごとに個性がある。まずはざっとそれぞれの概要を記しておこう。

ドラマ3回、映画化も……『家族ゲーム』はどう描かれてきたのか

 原作:時代は昭和。住居は団地。父は自動車工場の社長、母、成績優秀な兄、成績の悪い弟、アフロヘアでガタイのいい家庭教師。物語は兄の視点で進行する。

 1982年、鹿賀丈史版(テレビ朝日系):時代は昭和。住まいは団地、父(ハナ肇)は小さい工場を経営。兄を姉に変え、彼女(岸本加世子)は家庭教師にほのかな好意を抱き、そのせいで成績が下がっていく。主人公・吉本の外観はもっとも原作に近いと思われる。84年に続編が制作された。

 1983年、松田優作版:時代は昭和。川沿いの高層マンションに住む家族4人(伊丹十三、由紀さおり、辻田順一、宮川一朗太)は横一列に並んで食卓に座り、劇伴がなく、日常の生活音のみが強調されている。兄(辻田)の存在は若干薄い。

 1983年、長渕剛版(TBS):時代は昭和。下町の団地住まい。父は自動車修理工場の社長。設定は原作に最も近いが、吉本も父(伊東四朗)、母(白川由美)も飄々として人情味がある。兄(松田洋治)、弟(三好圭一)もまんべんなく描かれている。主題歌『GOOD-BYE青春』は長渕剛の曲。

 2013年、櫻井翔版(フジテレビ):時代は平成。新興住宅地の一軒家。父(板尾創路)は一部上場企業の社員。母(鈴木保奈美)は専業主婦。兄(神木隆之介)、弟(浦上晟周)の問題とともに、吉本が何者かという謎解き要素もある。映画版で弟役だった宮川一朗太も出演している。

テレ朝、映画、TBS、フジが表現した、それぞれの「吉本荒野」像

 発表媒体の特性も生かした各作は見比べると興味深い。純文学である原作の淡々とした描写をテレビ的なエンタメ作にするため、兄を教師に恋する姉に変えたのがテレビ朝日版。「おとなの2時間サスペンス」枠で放送したドラマの吉本先生は憧れの対象となった。

 21世紀になってできた櫻井翔版の面白さはさらに複雑化していく。父母も世間から排除されそうになること、つまりある種の虐めの被害者になる。まるで、80年代に『家族ゲーム』を見ていた少年少女が大人になっても、変わらず世間からいじめられているように。そして、吉本先生まで問題を抱えている。櫻井翔は松田優作がつくりあげた虚無的な存在と長渕剛の熱をもった人間の中間くらいの吉本を演じていた。

 子どもたちは大人の悲劇を醒めた目で見ながら、能動的に本心を隠して別のキャラを演じることを選ぶ。『家族ゲーム』のゲーム性が80年代は「人生ゲーム」という西洋双六レベルの素朴なものであったのが、時代を経て、人格を複数もってサバイブする能力を要するゲームへと進化していく。それが神木隆之介演じる兄・沼田慎一に色濃く現れている。

 抜粋、以下全文
https://news.yahoo.co.jp/articles/8d577607c2432f9d0eab4101db48246a85e3f287