(中略)

お笑いの“甲子園”ともいえるM−1は、関東芸人にとって鬼門であり続けるのか−。決勝進出経験もある塙さんに聞いた。 

■言葉のハンデ?

 M−1グランプリは平成13年に初開催。現在は結成15年以内であればプロ、アマを問わず出場できる。昨年は4640組がエントリーし、同12月の決勝では「霜降り明星」が史上最年少で優勝したことは記憶に新しい。今年も8月から各地で予選が始まっており、決勝進出の顔ぶれが注目されている。

 そんな漫才頂上決戦を制した歴代王者のうち、関西出身ではない芸人は「アンタッチャブル」、「サンドウィッチマン」、「パンクブーブー」など数少ない。なぜ、関東芸人はM−1で優勝できないのか。

 「(言葉の)圧力がちょっと出にくい、というのがあるのかもしれない。爆笑問題の田中(裕二)さんのように『なんでだよ!』と(強い圧力を)出せる人もいるが、関東芸人では全体的に少ない。言葉の問題があるかもしれないが…」

 塙さんによると、関西芸人の王道である「しゃべくり漫才」の核には“怒り”があるという。怒りは感情の中で最も熱量が高く、お客さんへのインパクトも強い。関東の言葉よりも、怒りの感情が乗りやすい関西弁は「しゃべくり漫才の母国語」であり、大阪は「サッカーで言うところのブラジル」だという。

■4分間の制約

 持ち時間が最長で4分間しかないこともM−1の特徴だ。<スピード感があって、笑いの数の多い漫才。これがM−1で勝つ最強のスタイル>。必勝パターンをこう分析する塙さんは、M−1=「100メートル走」説を持論とする。もちろん、相性がいいのは関西弁でのスピード感のあるしゃべくり漫才の方だろう。10〜15分ある寄席に慣れている塙さんは予選が近づくと、少しずつ体を順応させたが、それでも“体質改善”には限界があった。

 ちなみに、塙さんが“認定”するM−1史上初の9秒台は17年王者のブラックマヨネーズだ。<スタートも完璧、中間までの低い姿勢も完璧、そこから徐々に上半身を起こし、トップスピードに持っていってからも完璧でした>

 ただ、関東芸人に活路がないわけではない。期待の星となったのは、16年、M−1史上初めて関西以外の出身者同士のコンビとして王者となったアンタッチャブルだ。江戸言葉の「べらんめえ調」をイメージさせる柴田英嗣さん(静岡市出身)の口調について、塙さんは<(威勢がいい)江戸弁を操れるなら、関西弁にも対抗できるかもしれない>と望みを託す。

(中略)

■フグの調理師免許

 M−1での貴重な経験は後輩たちにどう伝えるのか。塙さんは「言ってもわからないでしょう。まず決勝に出ないと話が合わない」と、安易なアドバイスはしないつもりだ。

 塙さんの看板芸である時事ネタについても「今の若い人の時事ネタには工夫が足りない」と苦言も呈する。とりわけ、重要視するのがTPOだ。

 最近のニュースでも話題になったのは、吉本興業の闇営業が問題化し、岡本昭彦社長が記者会見で批判の矢面に立たされたことをいじったネタだ。巨人戦が行われる球場に登場した塙さんは「われわれがここで漫才しにきていることはなるべく内緒にしてほしい…。これ闇営業ですから」とボケてみせ、続けて「今日の岡本に注目しています。昨日の会見はグダグダだったから」と巨人の若き主砲、岡本和真選手と岡本社長を絡ませ、絶妙な吉本いじりで笑いを誘った。

 「あれは5分ぐらいでつくったネタですが、時事ネタはTPOでどう料理するかが腕の見せ所です。まあ、みんなが知っているワイドショーネタをやっているだけで、たいしたことはないですが…」

 とはいえ、その時事ネタ論への考察は深い。本書では<時事ネタ漫才ができるコンビは、言ってみれば「フグの調理師免許」を持っているようなものだと思うんです。つまり、世相の毒抜きがうまい>とある。

 その技を磨くため、塙さんは18年ごろから毎日1本、短いネタを作ってはブログに掲載している。その数は4500超になるというが、飄々とした表情でこう口にした。

 「脳みそだけは筋トレみたいに鍛えています」

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