シンガーソングライターの平原綾香が20日に都内で行われたラグビーワールドカップ2019日本大会の開幕戦で国歌「君が代」を独唱し、力強い歌唱で決戦前の雰囲気を盛り上げた。これまでさまざまなジャンルの歌手が国歌独唱の場に立ってきたが、普段のコンサートとは異質な緊張感があるともいわれる。難しいことは容易に想像できるが、プロの歌い手にとって具体的にはどこがどのように難しいのだろうか。

極度の緊張がミスを誘う?

 「個人的には、国歌独唱に歌の上手い下手論は重要ではないと思います。下手でもそれが愛嬌になる例も見たことがありますし」と、話すのはクラシック音楽を専門とするライターの50代男性。

 「平原綾香さんの場合、並みの歌手と一緒にしてはいけません。彼女は洗足学園音楽大学の出身で、クラシックの声楽家になっても不思議ではない、日本の芸能界では第一級の歌唱力の持ち主。ホルストの『ジュピター』を歌いこむのを聴いてもわかります。あれほどの力量があれば、普段も吹き替えとか編集に頼らず音楽活動をしているものと想像します」

 まずは、平原は芸能界屈指の歌唱力の持ち主ということで、超満員の観衆を感動させたのも、ある意味、当たり前ということか。

 「実力はもとより、ワールドカップの平原さんの歌唱はオケでの歌唱なので、外すリスクはほぼなかったと考えられます」と指摘するのは、当日スタジアムで平原の国歌独唱を生で聴いたという音楽プロデューサーの30代男性だ。

 「どんな曲でも歌い出しのキーを間違えると、ボタンをかけ違えるのと同じで歌唱中に修正するのは困難。でも、国歌独唱は会場がしーんと静まり返って歌い手にスポットが当たる、かなりの緊張感の中で始まりますから、変な言い方ですが歌い出しを間違えやすくなる条件が整っているんです。歌手もそれぞれで、生のプレッシャーに弱いアーティストにとっては難関かもしれません」

難関だが得難い経験になる

 では、どのようにすれば無事に歌うことができるのだろうか。昨年9月28日、ナゴヤドームで行われたプロ野球ファイナルシリーズ 2018「中日ドラゴンズVS阪神タイガース」(岩瀬仁紀1000試合登板試合)で国歌独唱を務めたアイドルグループ・delaのキャプテン・沢井里奈に、具体的に気をつけた点を聞いた。

 「国歌なので、『歌詞は絶対に間違えられない』と思いました。そして歌詞の意味を勉強して、息継ぎで一つのフレーズを切らないように気をつけました。私はゆっくりめなテンポで歌ったのですが、リズムになる音数が少ないので難しかったです。歌い出しの部分は録音して何度も何度も聞きました」

 オファーを受けたのが試合の1ヵ月前で、ボイトレの先生とは定期的な練習時間もすべて国歌独唱の練習にあてて本番に臨んだとか。

 「試合開始は18時で、独唱のリハーサルは11時から一度だけ行いました。イヤモニ(イヤホンタイプのモニター)もなく、声の反響を頼りに歌いました。本番は倒れそうなぐらい緊張しましたが、得難い経験になりました。歌ったあとは、シャキッとした気持ちになれました」

大舞台で行われる国歌独唱は、誰でも立てる場所ではない。歌手にとっても晴れ舞台であるとともに、極度の緊張感を克服しなければならない難関のようだ。

9/24(火) 17:29配信
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