京・小金井市で2016年5月、音楽活動をしていた冨田真由さん(当時20歳)がファンの男性に刺された事件で、冨田さんと母親が7月10日、犯行を未然に防ぐ義務を怠ったとして、警視庁を管轄する東京都、
当時の所属事務所、加害者の男性を相手取り、計約7600万円の損害賠償を求めて提訴した。

この日の提訴後、冨田さん本人と母親、代理人弁護士が、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見をおこなった。事件後、冨田さんが記者会見に出たのは初めて。冨田さんは、直前まで
「会見に出ようか迷っていた」(代理人弁護士)という。

●武蔵野署に「殺されるかもしれない」と相談していた

訴状などによると、冨田さんは2016年5月21日、小金井市のライブハウス近くで、ファンの男性(殺人未遂で懲役14年6カ月)に、刃物で首や胸などを刺されて、一時重体となった。
事件から3年が過ぎた今も、PTSD(的外傷後ストレス障害)に苦しんでいる。

事件前、冨田さんが警視庁武蔵野署に「殺されるかもしれない」と相談したところ、「(ライブ)当日は見回りをさせますから大丈夫ですよ」と言われたという。そのため、安心していいと考えた
冨田さんは当日、ライブ会場に歩いて向かっていたところ、男性に襲われた。

警視庁は2016年12月、「直ちに被害者の生命、身体に危害を加える危険性があるとの認識には至らなかった」が、「当時の資料を再検討すれば、その内容から本事案は人身の安全を早急に確保する必要が
あると判断すべき事案であった」と不備を認める検証結果を公表した。

●「今後起きるかもしれない事件をひとつでも多く防ぐきっかけになることを信じて」

冨田さんは会見で、あらかじめ用意していた手記の冒頭部分をか細い声で読み上げた。

「まずは、当時、テレビやネットのニュースで私の事件を知り、心配し、心から生きることを願ってくださった方々に感謝を伝えさせてください。心強い言葉やあたたかい支援に、とても救われていました。
本当にありがとうございました」

冨田さんの手記によると、今回、裁判に踏み切った理由は「今後起きるかもしれない事件をひとつでも多く防ぐきっかけになることを、ひとりでも多くの人が救われるきっかけになること信じて」と
いうことだ。

●「私や娘の訴えがどうして軽く扱われてしまったのか」

冨田さんの母親は次のように心境を語った。

「事件から3年が経ちますが、事件のことは一日も忘れることなく、苦しい日々を送ってきました。そういう中で、周りの方に支えていただいて、ここまでやってくることができました。

事件後、向こうの親からは謝罪の言葉もなく、いまだに電話の一本もない状況です。裁判のときに、犯人の情状証人として出廷していたにもかかわらず、挨拶一つもらえませんでした。親として
どんな気持ちでいるのか、理解できません。

また、警察とのやり取りとの中で、3年間、こちらからの質問には一切答えてもらえませんでした。去年10月の最後の話し合いでも、こちらからの訴えを聞いていません。『裁判になったら明らかにします』
という言葉でした。そのため、娘の体調も心配しましたが、当時の話を聞くには、裁判するしかないと決断に至りました。

何もできないのであれば、『大丈夫』という言葉ではなく、危険を回避する方法や、身の置き方を指示してほしかったと思います。娘も私も『大丈夫』という言葉を信じてしまったことを後悔しきれません。

裁判を通して、私や娘の訴えがどうして軽く扱われてしまったのか、警察がどうして『聞いていません』と言い続けるのか、また、自分たち(警察)の判断の甘さで命を落とすかもしれなかった、
一生後遺症を抱えることになったことをどう受け止めてくれているのか、裁判を通じて聞いてみたいと思います」

●警視庁の落ち度

代理人の高橋正人弁護士は、警視庁の落ち度として、次のような点を指摘したうえで、事件は未然に防げたと述べた。

(1)「ライブ当日に見回りをさせる」と言ったのに、(所轄の)小金井署に見回りについて伝えなかった
(2)数年前、別のストーカー相談で、警視庁万世橋署が同じ加害者の名前を入力し忘れていた
(3)冨田さんが武蔵野署を訪れた際、ストーカー相談でなく、一般相談として受理したこと
(4)警察官職務執行法にもとづく注意・警告を与えなかったこと

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