■「もう引退した方がいいかなと思います」

 2年前の秋の夜、冷静な表情で「引退」の二文字を口にした斎藤佑樹に、その場にいた全員で反対しました。

 チームに求められる結果と自らが求めるパフォーマンスに大きな差があるというのが、斎藤が引退を口にした一番の理由でした。

 あの夜、僕らは彼の気持ちそっちのけで全力で止めました。止めなければいけないと思いました。

 ただ、その年の暮れ、または年明けに引退会見をするのでは……スポーツキャスターとして、実況者として、1人のファンとして「まだ引退はしないで欲しい」という思いを抱えながら過ごした、2017年のオフだったことを覚えています。

 しかし、斎藤佑樹は引退を選択することはありませんでした。そのオフもたった1人で黙々と自主トレを行ない、2月1日にファイターズのユニフォームを着てグラウンドに立っていました。ホッとしました。心の中にあった不安が取り除かれた瞬間でした。
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■応援してくれる人たちへ恩返し。

 斎藤佑樹はなぜ、引退を選択しなかったのか? 

 昨年、インタビューで単刀直入に聞いてみました。返ってきた答えはただ1つ。

 「支えてくれる皆さんがいる。だからです」

 想像以上にシンプルな答えでした。苦悩の時間が長く続く中で、初めて聞いた「引退」という言葉。最終的に導き出した答えは、現役続行。自分を支え、応援してくれる方たちへの恩返しの想いが、自らを奮い立たせていました。

 今年も斎藤佑樹は1人、グアムに飛び立ち自主トレを行うことを決めました。1月半ば、彼を取材するために現地を訪れました。
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■自主トレのために集った仲間。

 確かに、トレーニングを行なっているのは斎藤佑樹、ただ1人。しかし、彼の周りには驚くほど多くの人がいました。

 斎藤が数年前から通うトレーニングジム、トータル・ワークアウトのトレーナーらが数名、さらに大学の後輩、友人、東京六大学野球で戦った仲間たち、さらに彼の同世代のメディアで働く人間……10人ほどが集まり、斎藤のトレーニングを手伝っていました。

 中には会社の休みを使ってブルペンで彼のボールを受け、打席に立ち、投球フォームを撮影している方もいました。人知れず苦しむ斎藤佑樹をそばで見てきて「もう一度、輝いてもらいたい」という思いから、自主的にグアムに足を運んでいたのです。

 彼らの愚直なまでにひた向きな姿を見て、気が付けば僕も練習を手伝っていました。

■7割の力で130km中盤をマーク。

 グアムの地で何度も入ったブルペンでの投球練習、走り込みとジムで徹底的に鍛えた下半身の強化と、「レッドコードトレーニング」と呼ばれる、身体のバランスを整えて神経伝達を飛躍的に高めるメニューを組み合わせ、不安定だった体の状態はここ数年で最も良い状態に引き上げられました。

 7割の力で130km台中盤をマークした1月のブルペン投球が、調子の良さを物語っていました。

 2年前に覚悟した「引退」。ただ、それを選ばなかった選択が、正しかったと証明する時が今年こそ来るかもしれない。

 彼が今年、2年ぶりの勝利を挙げ、お立ち台に上がった時に、支えてくれる皆さんにどんな言葉を伝えるのか。その時を楽しみに待ちたいと思います。

2/15(金) 11:31
Number Web
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190215-00833495-number-base&;p=1