■関東芸人の悪い癖

──去年、M−1で優勝した結成15年目のとろサーモンなんかも、もうベテラン漫才師のようでした。

塙 めちゃめちゃうまいですよね。2015年にM−1が5年振りに復活し、参加資格を従来の結成10年以内から結成15年以内に延ばしたことによって、経験値の高いやつがごろごろいるようになった。
競馬で言えば、3歳クラシックから、古馬のレースになってしまったようなもんです。だから、昔ほど強い武器を持っていても通用しなくなっちゃいましたね。
それ以上に経験値がものを言うようになってきてしまった。新しいことをやらなくてもいけるぞ、と。とろサーモンが優勝を決めた「石焼き芋」という、一人が石焼き芋屋さんに扮するネタだって、同じネタで何度も予選落ちしてるんですよ。
でも15年目の「石焼き芋」ならいけるということは、単純にうまくなっただけじゃないですか。そういう大会になりつつある。
芸歴10年目以内の大会だったら、去年なんかは、ジャルジャルのネタとかがもっと評価されてたと思いますよ。
新しいという意味では、いちばん目立ってましたから。まだ全国的な知名度は高くありませんが、ワタナベにも四千頭身とか、おもしろい3人組がいるんです。下手ですよ。
でも、下手だけど何かおもしろくなりそうな雰囲気はある。M−1もそういう芸人を評価する大会にできないのかなと思うんですけどね。

──確かに復活してからのM―1は、存在意義が大きく変わった気がします。

塙 M−1がいったん終了したことを受け、11年から14年までフジテレビ系列が放送していた漫才コンテスト『THE MANZAI』は、芸歴の制限はなかったじゃないですか。
だから『THE MANZAI』が漫才師の力量自体を評価していたというのはわかるんです。
でもM−1が復活したことで『THE MANZAI』がなくなり、そのM-1が芸歴15年目以内と延長措置をとったことで、結局は、M−1が『THE MANZAI』に代わってうまさを競うコンテストになってしまった感がある。
復活してからで言うと、復活1年目の2015年に優勝したトレンディエンジェルがもっともM−1らしい王者だったと思うんです。ネタも新鮮だったし、若手らしい勢いもあった。
漫才でハゲネタをあそこまで多投してくるコンビはいませんでしたから。あれが逆に結成15年目とかで、妙にうまかったりすると、かえって勢いが削がれるというか、優勝できなかったんじゃないですかね。

■ネタを信頼するのは古典落語と同じ

──今、四千頭身の名前が出ましたが、関東芸人で、これからM-1で優勝できそうな芸人はいますか。

塙 いや、俺、ぜんぜん今の若手を見てないんだわ。さっぱりわかんない。いないんじゃないですか。まあ、同じ事務所ということで言えば、三四郎に期待してますけど。ただね、三四郎も含め関東の中堅どころで、そこそこ人気もあるぞという芸人に共通した弱点があるんです。
若い人が集まりがちなライブハウスとかでやることが多いせいなんでしょうね、「テレビに出るようになって、おまえ調子にのってんな」とか、同じ事務所に所属している違うコンビの名前を出して「だから事務所は〇〇の方を推してるんだよ」とか。
それって全部内輪ウケのワードなんです。けれども、ライブとか営業では異常なほどウケるんです。だから癖になる。三四郎の小宮(浩信)は特にそういう癖がついちゃってて、すぐ「何で笑わないんですか」みたいなことを言っちゃう。

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関東芸人はなぜM-1で勝てないのか?【第1回】 – 集英社新書プラス
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