サッカー界のマエストロ(指揮者)が日本でタクトを振るうことになった。J1神戸に新加入したMFアンドレス・イニエスタ(34)。ワールドカップ(W杯)ロシア大会にスペイン代表として出場し、代表引退で区切りを付けてJリーグに参戦した。来日からわずか4日後の22日にJ1デビュー。「この挑戦にわくわくしているし、うまくいくことも確信している」。人気と実力を兼ね備えた世界レベルのゲームメーカーは日本サッカーの発展と強化に貢献できるか。(吉原知也)

 ■年俸30億円のスターが神戸に

 1カ月に及んだW杯ロシア大会での現地取材と日本でのデビュー戦を踏まえ、スターの横顔に迫った。

 イニエスタは2年以上の複数年契約を神戸と結び、推定でJリーグ史上最高額となる30億円超の年俸を受け取る。その経歴を見れば、高額年俸の市場価値の理由がうなずける。

 スペイン1部の名門バルセロナの下部組織で育ち、その後、トップチームの中心選手として活躍。クラブに数々のタイトルをもたらした。

 スペイン代表としてW杯にも4度出場。2010年南アフリカ大会では決勝でゴールを挙げ、母国の初優勝に貢献した。相手守備陣の隙を突き、高精度のパスを通すセンス、瞬時に好機を見いだす視野の広さ、どれもが天下一品だ。

 世界の司令塔は、日本で新たな一歩を歩み出した。22日に本拠地ノエビアスタジアム神戸で行われた湘南戦。0−2の後半14分に交代出場でデビューを果たした。劣勢の中でも、最大限の実力を発揮。同18分にFW大槻に送った浮き球のパスは、わずかにつながらず。3失点目を喫すると、すぐにボールを中央に運び、仲間を鼓舞した。

 FKのキッカーも務め、その後は、FWウェリントンに高精度のスルーパスを通し、クロスに自らボレーで合わせたが、これは枠を捉えられなかった。後半ロスタイムには自ら左からの突破を仕掛ける活躍を見せた。しかし、結局チームは0−3で敗れた。

 仲間との連係が手探りの中でも、卓越した才能を披露。試合後は「まだチームと呼吸が合っていないので難しかった。できるだけ前を見て攻撃を組み立てること、縦へのパスを探すプレーを心がけた」と淡々と振り返った。

 ■ロシアW杯で有終の美

 最後の代表ユニホームの袖を通したのは、16強入りしたロシアW杯だった。全4試合に出場。プレー中は、ダブルボランチの一角や左MF、トップ下とポジションを変え、スペインが誇るパスサッカーの要となる攻撃的ポジションを担った。

 1次リーグのモロッコ戦では、DFセルヒオラモスのパスを受ける際に取りこぼし、相手に奪われて失点を喫した。その後の前半19分にゴール前に飛び出してMFイスコにパスを送り、ゴールを演出。汚名返上のアシストを記録した。

 ロシアとの決勝トーナメント1回戦は先発を外れて後半から途中出場。試合はPK戦に突入し、重要な1人目のキッカーとして冷静なインサイドキックを決めた。だが、仲間が外して無念の敗退となった。代表通算131試合目は悔しいラストマッチとなった。試合後、ロシアのサポーターの歓声が響く中で虚空を見つめ、ピッチでうなだれる姿が印象的だった。

 ■イニエスタ効果は多方面に

 日本サッカー界に、「イニエスタ需要」を期待する声は大きい。実際に22日のデビュー戦の入場者数は2万6146人で今季最多を記録した。クラブによると、7、8月のホーム試合は完売見込みだという。

 神戸の対戦相手のJクラブにはチケットの販売拡大を見込む向きもあり、歓迎ムードが広がる。さらに世界中のサッカーファンがイニエスタの観戦目的で来日することも予想され、観光都市・神戸のインバウンド効果も期待できる。

 チーム内の若手やサッカーイベントなどでふれあう子供たちにとっても、一流の技術や世界を制した経験を伝える良きお手本となり、日本サッカー界全体のレベルアップにつながる。イニエスタ効果は多方面に及ぶだろう。

 これまで世界を魅了してきた34歳の司令塔は、来日後の取材で「日本サッカーが発展することを願っている。これから体の調子を上げ、できるだけ早く慣れて、神戸のチームに貢献する」と新たな決意を示した。

 イニエスタが繰り出すパスの先には、日本サッカーをもり立てる可能性が広がっている。

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