「何を言えばいいのか……」というのが、彼の最初の言葉だった。

 日本対ベルギー戦を終えて、ロストフ・アレーナからパリのフィリップ・トルシエに電話したときのことである。

 会見ルームの外に据えられたモニターでは、記者たちの質問を受けた西野朗監督が淡々と試合をふり返っている。その映像を見るともなしに眺めながら、私もトルシエにこう切り返した。

 「そうですね。あなたは何が言えますか?」

 多少の沈黙の後に、トルシエが話し始めた。内容が良かったがゆえに後悔に満ち溢れたベルギー戦のこと、日本の敗北の理由、そしてロシアワールドカップを通じて、日本が世界に与えたインパクトについて……。

 心に差し込んだ痛みの念とともに、トルシエが日本のロシアワールドカップを総括する。

「ベルギーが勝ったのではなく、日本が負けたのだ」
 「まず言えるのは、準々決勝進出という大きな目標を前に、日本は経験不足と未熟さを暴露したことだ」

 ――その通りだと思います。

 「日本は最後まで攻撃の意志を示し、CKでも積極的に点を取りに行った。その点は評価すべきでも、全員をあんな風に前線に上げてしまうべきではない。80mのカウンターアタックを喰らっての94分時点の失点。ナイーブという以上のものだ。

 ベルギーが勝利を得たのではない。

 日本が負けた。

 日本は攻撃的なプレーを、同点に追いつかれた後も続けた。それは良く機能していたが……。

 フェライニやコンパニー、ルカクらの身体の大きさが、日本を苦しめたのも間違いない。ただそうではあっても、日本が最後の瞬間に失点を喫する理由にはならない。日本に足りなかったのは経験であり成熟だ」

「監督はしっかり指示を出すべきだった」
 「そこは監督とともに選手にも責任がある。彼らは得点を決めに行って上がったのだから。本田の惜しいフリーキックもあった。選手はかさにかかって攻めようとしていた。

 ただあの場面でガイドは必要だった。

 監督が彼らにそこまですべきではないとしっかり指示を出すべきだった。

 日本はあまりにもナイーブな戦い方をしていたので、ベルギーはそれをすぐに理解したのだろう。だからGKはボールをキャッチするとすぐに味方にリリースした。

 こんな結末で試合を失うことは、普通は考えられない。ゲームをよく支配し、スピードとパス回し、技術で相手を圧倒しておきながら。

 日本が驚くべきチームであったことは誰もが認めるところだ。

 準備段階での困難な状況の末にワールドカップで成功を収めた。グループリーグ突破という目標も達成した。ベスト8も目前まで迫り、ほとんど快挙といっていいものだった。ただし今夜の敗北もまた、普通では考えられないものだった」

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180706-00831274-number-socc&;p=1

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