※この記事は「デッドプール2」本編の内容に触れています。


[映画.com ニュース] R指定ながら全世界で大ヒットを記録した異色のヒーロー映画の続編「デッドプール2」が6月1日に公開し、前作に負けず劣らず大ヒットを飛ばしている。その裏で、知恵を絞りに絞った人がいる。ふんだんに盛り込まれた外国語のジョークや、日本ではなじみのないもののパロディを、1秒4〜6文字で伝えることを求められる字幕翻訳者だ。前作に続いて続編の字幕翻訳も担当した映像翻訳家・松崎広幸氏に、裏話とその職業観を聞いた。

東京都出身の松崎氏は、1963年生まれ。幼少期から映画好きで、映画製作に興味を持っていたが、翻訳者になろうとは「まったく思っていなかった」という。早稲田大学第一文学部を卒業後、1年間のフランス遊学でフランス語を独学で習得。帰国後にテレビ放送用の洋画の吹き替え翻訳を始め、現在は劇場公開映画の字幕・吹き替え翻訳を中心に活躍。これまで「パシフィック・リム」(吹替・字幕)、「スパイダーマン」「メン・イン・ブラック」(吹替)、「トランスフォーマー」「アイアンマン」「ソーシャル・ネットワーク」「エクス・マキナ」「デッドプール」シリーズ(字幕)などを担当した売れっ子翻訳家だ。

「翻訳者として特別な勉強をしていない」という松崎氏だが、フランス滞在時に通訳としてテレビ局をアテンドした際の仕事ぶりが評価され、帰国後にフジテレビ系列の映画番組「ミッドナイトアートシアター」の仕事が舞い込んだ。始めは映画の前後に付く解説の演出と編集を行っていたが、当時は翻訳者が不足していたことから「語学が得意そうだからやってみない?」と声がかかった。

「たまたま評判がよくて。1回で終わりだろうと思っていたら、なんとなく今まで続いちゃったんです。この方面に進みたい方がたくさんいらっしゃるのは十分承知で、いい加減なまま来ちゃって申し訳ないと思うんですけど……」

松崎氏は、その言葉通り常に“申し訳なさそう” な表情を浮かべて話す。理由は、その職業観にあった。

「ほかの国の言葉を日本語に移すということ自体が、無理なことだと思うんです。必ずどこかにゆがみが出てきます。映像翻訳は、さらに色んな制約がかかってくる。長いセリフをある程度の字数のなかで訳さなければならないとなると、原語で言っていることの何割かを省略しなくちゃならなかったり、ちょっと言い回しを変えて、時には意味さえ変えて日本語として成立させなくてはならなかったり。僕は映画の足を引っ張っているような気がするんです。画の上に字が載っているだけで、何かが損なわれている。(映像翻訳の仕事は)できるだけ映画の邪魔をしないようにという努力なんじゃないかと思います」

そんな松崎氏が、翻訳する上で「1番苦しい」と明かすのは“英語のダジャレ”。日本語でゴロよくダジャレとして成立させるために、「考えに考えます」と苦笑いする。「デッドプール2」で松崎氏が上げたダジャレの例は、デッドプールとドミノが「“運が強い”は特殊能力か」について言い合う場面。デッドプールは否定の回数を重ねるごとに「No」のバリエーションを増やしていく。アメリカのテレビ司会者で俳優のMario Lopezをもじった「Mario No-Pez」、否定を意味するスラング「Nacho cheese(Not your cheeseの短縮版)」といった具合だ。

>>2以降に続きます

2018年6月8日 19:30
https://eiga.com/news/20180608/16/