アイドルグループ「TOKIO」の山口達也さんが、強制わいせつ容疑で書類送検された事件では、「メンバー」や「容疑者」など、報道各社の「呼称」にも注目が集まった。

一方で、そもそも山口さんの実名を報じるべきだったのかという疑問もある。山口さんは示談しており、起訴される可能性はまずない。加えて、一部報道機関やネットユーザーによる「被害者探し」の問題も起きている。

加害者の実名報道についてどうあるべきか。芸能人の権利にくわしい佐藤大和弁護士は「芸能人に限らず実名報道はやめるべき」と主張。

一方、被害者支援に力を入れる上平加奈子弁護士は「社会的な影響を考えると仕方がない」と報道に一定の理解を示す。二人とも被害者探しに強い懸念を抱いている点は共通だ。それぞれに見解を聞いた。

●「推定無罪の原則」を忘れるな 「芸能人に限らず実名報道はやめるべき」

多くの芸能人の顧問弁護士をしている佐藤大和弁護士は「芸能人に限らず、捜査段階での実名報道には反対です」と強調する。

――その理由は?

【佐藤】法律上は、有罪の判決を受けるまでは「無罪」と推定され、そのように取り扱われなければなりません(推定無罪の原則)。この原則は、マスコミ等による報道においても変わらないと考えます。

捜査段階で実名報道されると、一般人の場合、裁判まで反論する機会もなかなか作れず、マスコミによる一方的な報道になってしまいやすいといえます。また芸能人にとっても、活動自粛などで多額の違約金が発生する可能性があり、仕事や生活に大きな影響があります。

――報じる側はそれなりの確度を持ってやっていると思われるが…

【佐藤】裁判所における確信と警察やマスコミの確信は違います。

たとえば昨年、ある芸能人が大麻取締法違反の疑いで逮捕されました。マスコミは「確信があった」から大騒ぎしたのでしょうが、報道では「嫌疑不十分」とされており、起訴されませんでした。しかし、不起訴とはいえ、報じられた芸能人のイメージ低下は避けられません。

――今回は示談もしているが?

【佐藤】もちろん、報道された内容が事実であれば、山口さんがした行為は悪いことです。ただし、示談にもさまざまなパターンが考えられますから、推定無罪の原則は変わらないと考えます。むしろ、捜査段階で報道されると、憶測の記事や中傷的な記事・情報が出る可能性も高いと言えます。

特に気になるのが、「被害者の特定」や「被害者側にも落ち度がある」という発言などです。報道によってバッシングを受けるのは、加害者とされる方だけでなく、被害者側もです。

私は有名人相手のトラブルに巻き込まれてしまった一般人の代理人をすることもあります。皆さん二次被害を「そんな可能性まで考えてしまうのか」というくらい恐れ、さらに大きな精神的な苦痛を被ります。

ーー被害者探しが一部マスコミやネットユーザーによって行われている

【佐藤】今回の場合、真偽はともかく、接点となった番組名や年齢が報じられているため、かなり候補が絞られています。警察からのリークなどを盲信し、数字が取れれば良いやとばかりに、マスコミが配慮のない報道や憶測の報道をしているケースも見られます。

実名報道は、加害者の更正を妨げ、冤罪の可能性もあり、また何より被害者にとっても前を向く機会を阻害される可能性もあり、誰にとっても好ましくありません。

また、この事件は、報道に至る過程において疑問に思うところが多く、公務員(警察など)の守秘義務違反の問題も、改めて考える必要があると思います。警察などの守秘義務違反も犯罪になりえる行為です。

●実名報道には肯定も…「被害者の情報に踏み込み過ぎた」

一方、犯罪被害者支援に取り組み、マスコミ対応にくわしい上平加奈子弁護士は、山口さんの実名報道は「仕方がない」と語る。

ただし、佐藤弁護士と同じく、被害者の特定については「有名人が相手だと、そもそも被害の申告すらできないという風潮を生みかねない」と懸念を口にする。

>>2以降に続く

2018年04月29日 10時13分
弁護士ドットコムニュース
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