因果な仕事だと思った。先日、競馬場の芝についてJRAの専門家に話をうかがう機会があった。競馬場の馬場は予想をする上で重要なファクターながら、
実際に話をうかがい、知らないことがたくさんあった。

 みなさんはどう思うだろう。時計の出る芝はどのようなものなのか。硬いと連想する人は少なくないはずだ。実際に硬い馬場は時計が出やすくなる。
だからといって硬い馬場しか時計が出ないということではない。ここがポイントだ。

 JRAが目指す馬場。公正に全出走馬が能力を発揮し、かつ安全であること重視している。決してレコードや時計が出る馬場を歓迎しているわけではない。
馬場の均一性、平たん性、クッション性を追求し、進化に努めている。時計が出ているだけに硬い馬場をつくっていると思われがちだが、それは真逆。むしろ柔らかい馬場を目指してやっている。

 馬場のクッションを数値化するもので重力加速度というものがある。単位は加速度としても用いられる“G”。東京競馬場の芝は約90Gとなっている。
あまりピンとこない人もいるだろう。東京競馬場のパドックに敷かれている人工芝が約190Gで一般的な学校の校庭で約600Gだ。年代によって上下するものの、
近年でもっとも硬かったのは90年代前半の芝で約130G。そこから安全性を重視するようになり、05年からは80Gから90Gの間を推移している。
しかし、時計は年々、速くなる傾向にある。要するに、馬場の硬度と時計の速さに大きな相関性はない。では、なぜ時計が速くなっているのか。

 その鍵を握るのは芝の種類と日本の技術にある。硬度で比較するなら世界の競馬場と大きな差はない。それでも速い時計が出ているのは、日本の競馬場は
野芝を主に使っているからだ。日本には四季がある。その環境に適しているのが野芝。フランスのロンシャン競馬場はペレニアルライグラスをメインとしている。
この二つの特徴は芝の見えている部分ではなく根っこにある。野芝の根は網目状に張り巡らされるのに対し、ペレニアルライグラスは1本1本が単体で生える。
要は野芝は根の部分がカーペットのようになっており、グリップがしっかり利くが、ペレニアルライグラスは脚に絡みつくようなイメージだ。もともと走りやすい芝に加え、
前述した均一性、平たん性を突き詰めたところ、時計が出るようになった。

 そこに日本人の勤勉さが加わる。約30年前からの取り組みとして、日本の競馬場の芝に最適な芝はどの種類なのか。全国各地の芝を徹底的に分析し、
競馬場に合う芝を造り上げた。こうしてできあがったものがエクイターフ。走りやすくて安全な馬場がつくられた。ただ、副産物としてついてきたのが高速化。
これにより、誤解が生じることになる。「JRAは速い馬場をつくろうとしているのだろう」「時計が出るということは硬い馬場に違いない」「馬の故障につながる」という意見だ。
せっかくつくった走りやすい馬場なのに。

 走りやすくて安全の上、記録も出やすい。これは他のスポーツなら称賛されるはず。ただ、競馬でその風潮はない。日本の馬場の優秀さについて、知られていない
ということもあるが、記者が思うに競馬はスポーツとギャンブルの二面性があるからだ。

 他の競技で新記録が出たら話題になる。ただ、競馬だとそうはならない。今夏の札幌。ダートではあるが1700メートル戦で日本レコードが樹立された。エルムSを制した
ロンドンタウンが記録した1分40秒9。従来の記録を0秒8も短縮する驚異的なものだ。ただ、これが競馬ファンにとって最大の関心事とはならなかった。

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