<W杯を知る男たち フィリップ・トルシエ論>

 W杯で日本を率いた監督による連載「W杯を知る男たち ○○論」の第2弾は、02年日韓大会で初めて16強に導いたフィリップ・トルシエ氏(62=フランス)です。18年ロシア大会の切符を勝ち取ったハリルホジッチ監督に、オーケストラを操る指揮者のようにチームの一体感を作ることを提言した。

 02年大会で16強に導いたトシエ氏はハリルジャパンを「最終戦を待たずに結果を残した。素晴らしいことだ」と祝福した。欧州予選ではフランスやイタリアなど強豪国が格下と引き分けるなど、必ずしも順調にはいかない例を挙げ、「当たり前に出られる国はない」と、出場権獲得の難しさを強調した。

 W杯本大会に向けては「何より1次リーグに集中すべき」と言う。「最も大切なのは組み合わせ抽選。対戦が決まった相手のスタイルや力関係を分析すると、メンバー23人が大きく変わる可能性もある」。自身は抽選後の分析から候補選手を35人程度に絞り、選手と直接会ってやり取りをするなどしてメンバーを見極めた。

 経験を通じて学んだことは、試合に臨むまでの細かな部分がパフォーマンスに影響しやすいということ。

大会中は試合会場に入る時間が指定され、1次リーグ期間中は、試合と試合の間はキャンプ地に戻ることが義務づけられるなど、制約がある。

「何時に起きるか、ホテルで何を食べるか、バスの出発時間も決まっている」。特に初めての選手はルールに従ううちに、自覚のないままW杯の雰囲気にのまれがちになるという。

「久保や乾ら、いい若手がたくさんいるが、やはり経験は少ない。吉田や長谷部、長友らがリーダーシップをとるべき」と言い、本田について「例えベンチでも、ベンチ外でも、過去の大会での経験を伝えることは大切だ」と、戦力になるとみていた。

 02年と現在はチームの環境が大きく異なる。W杯出場を決めたオーストラリア戦ではメンバー23人のうち17人に欧州経験があるハリルジャパンに対し、02年は中田英寿だけ。

「ドルトムントやスペインでプレーした選手などいなかった。だから、自分が指揮者として選手の技術に合わせたオーケストラを作った」と振り返る。

トルシエ氏は約4年間、年代別代表を含めた“総監督”の立場だった。代名詞のフラット3など自身の哲学を各世代に落とし込んでベースを作った。「海外遠征や試合は、成熟の経過を見るための『トルシエ研究所』のようなものだった」。戦術の理解度が高い選手を集めていった。

 欧州経験者が大半になったが、今はそこに難しさがあると懸念する。「豊富な技術と経験は、個人主義につながることがある」。例えとして伝説のロックギタリスト、ジミ・ヘンドリックス(米国)の名前を挙げ

「今の日本代表というオーケストラには、ジミのような存在がいる。際立つ存在がいると、ハーモニーは作りにくくなる」と話した。影響力が大きな選手に対して「やりすぎるなと引き留めることも、監督の力」と主張した。

 「02年はジミのような突出した存在がおらず、戦術だけではベスト16の壁を打ち破れなかった。今は、監督が困った時に頼れる、切り札になりそうな選手がたくさんいる」。日本初の8強入りに向けて、ハリルホジッチ監督とも話したというトルシエ氏は「バヒドはいいアイデアを持っていると思う」と、最後は太鼓判を押した。【岡崎悠利】

◆フィリップ・トルシエ 現役時代はDF、フランス2部でプレーして28歳で引退。ナイジェリアを率いて98年W杯予選を突破。本大会では南アフリカを指揮し、大会後に日本代表監督に就任。カタール、モロッコの代表監督を経て08年から当時JFLのFC琉球総監督を2年務めた後、中国やトルコのクラブを指揮。

9/26(火) 11:01配信 日刊スポーツ
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