人気漫画『北斗の拳』(原作:武論尊/漫画:原哲夫)や『シティハンター』(北条司)を担当し、週刊少年ジャンプの歴代最高部数653万部を記録した時代の元編集長・堀江信彦氏に、
ジャンプ編集部の舞台裏を直撃取材。
後編となる今回は、北斗の拳の名エピソード誕生秘密や、人気漫画の実写映画化について聞いた。

■『北斗の拳』の名エピソードは編集部のテコ入れ
 
ジャンプでは、編集者が積極的に漫画家と意見交換をする傾向にあったと堀江氏。
「『北斗の拳』の第2話は、実は一度、僕がボツにしました。
最初の原稿では、ケンシロウが荒野をさまよう行動理念が分からなかった」。
これでは連載が続かない、と危機感を感じた堀江氏は、その原稿をボツにして描き直しを依頼。
そして出来上がったのが、 名エピソードと名高い『怒り天を衝く時! の巻』、いわゆる“種モミじいさん”の登場話である。
堀江氏は、このエピソードによりケンシロウの行動理念が明確になったと述懐する。

『魁!!男塾』(宮下あきら)では、一度死んだキャラクターを生き返らせたり、犬が主人公の『銀牙 -流れ星 銀-』(高橋よしひろ)では、
犬に人の言葉を喋らせると人気上昇。
これらは編集部のアイデアを盛り込んだことによる。
「編集者のアイデアで漫画が持ち直すケースはいくらでもあります。
週刊連載というのは肉体的にも精神的にも負担が厳しいため、漫画家ひとりでは難しい。
周りの協力、アイデアがあって名作になる。
漫画家にとっては、いかに優秀な編集者と出会えるかも、ヒットするための重要なファクターです」(堀江氏)

そもそも、漫画編集者っていうと原稿取りくらいに思っている人が多いのだと同氏。
優秀な漫画編集者は、才能のある人を見つけたら「この人をどう食べさせようか?』と考える人のことだと強調する。
堀江氏によれば「この業界を見渡せば、デビュー前の新人に手あたり次第『原稿が出来たら持ってきて』で済ませている編集者もたくさんいます。
確かにそれが楽ですよね。でも、漫画家として才能があると思ったら、その人をどうやって“漫画漬け”の環境にするか、
どうやって“食べさせるか”を考えるのも編集者の仕事」なのだという。

そうした時に一番よいのは、漫画家のアシスタントに入れること。
アシスタントならずっと漫画を描いていられるから、伸び方が全然違うと堀江氏。
「漫画雑誌にはそういう機能もある。優秀な人にどうやって漫画漬けの生活をしてもらえるか、って考えた時にアシスタントは有効です。
ただ、最近は漫画雑誌が売れないからそういう機能が弱くなっているとも感じます。
会社としても、食べるのはなんとか自分でやってくれ、良い作品ができたら持ってきてくれ、となってしまっている」と語る堀江氏。
昔と違って漫画に専念してもらう環境作りが弱くなっており、それも漫画業界が低迷している要因のひとつだと指摘する。

■人気漫画のハリウッド映画化は編集部も疑心暗鬼!?

昨今、人気漫画の実写映画化はファンの間で物議をかもすが、1993年に公開された香港のアクション映画・シティハンターもまた、大きなインパクトを残した作品と言える。
「海外制作の場合、翻訳自体が大変。仮にシナリオをチェックして『これ面白いの?』と聞いても、『アメリカ人にとっては面白いんだ』と言われたら何にも言えない。
文化と言語の違いは難しい」と強調する。ファンは期待を膨らませていたが、編集部は違う意味でドキドキしていた、と堀江氏は苦笑する。

■653万が完売! 伝説号の舞台裏とは?

1994年発売の新年3・4合併号の最大発行部数は653万部。
当時の状況について堀江氏は、1号1号を作るのに必死で、この号に特に思い出はないとのこと。
しかし、営業部に「何万部刷りますか?」と聞かれ、「700でも800でもいいですよ」と答えたのは覚えていると語る。
営業は「いやいや…」と苦笑いだったらしいが。
だが、この号は実売で98%に達した。「いま、雑誌業界は70%の売り上げでも上出来というけど、98%は本当の意味での完売。
実際は“売り損じ”ですよね。700万部でも90%くらい売れたのではないかな」(堀江氏)

http://news.livedoor.com/article/detail/13655294/
2017年9月24日 8時40分 オリコン

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