元イングランド代表ストライカーは、降格危機のチームの救世主となれるだろうか。

 J1第17節、北海道コンサドーレ札幌は清水エスパルスに1−0で勝利し、連敗を6で止めた。残留圏内の15位に浮上したとはいえ、状況は予断を許さない。後半戦での巻き返しを狙うクラブは、昨季までジュビロ磐田で活躍したジェイを迎え入れた。

 筆者は現在、磐田の番記者を務めている。2016年まで磐田に所属したジェイはチームの得点源であり、類まれなゴール感覚で前年のJ2得点王にも輝いた。ピッチ内で放つ存在感はもちろん、そのフレンドリーな性格に取材の度に惹きこまれていった。その一方で感情の起伏が激しく、時にチームの和を乱すような振る舞いもあった。

「FWとして超一流だが、気難しい」

そんな心配をしている札幌ファンも多いのではないか。だからこそ今回は、ジェイの“取扱説明書”という形でジェイという人間、パーソナリティーの一端を知ってもらえればと思う。
「小魚か、鮫か。お前はどうなりたいんだ!」

 左足から放たれるシュートは威力、精度とも抜群で、190cmの高さは空中戦での優位性を保証する。体格による存在感が目を引くが、技術とスピードも兼ね備える。昨季は22試合に出場し14得点をマークするなど、磐田のJ1残留に大きく貢献した。間違いなくゴール前での嗅覚はリーグ屈指のレベルだった。

 普段は温厚で紳士的、ファンへのサービス精神も旺盛だが、試合になるとその表情は一変する。「ピッチの上ではライオン」と自身を百獣の王に例えたこともあれば、こんなエピソードも明かしている。

「幼い頃、お父さんにずっと言われてきたんだ。『小魚になるのか、鮫になるのか。お前はどうなりたいんだ』と。僕は、ただ水の中を優雅に泳いでいるだけの存在にはなりたくなかった。常にチャレンジしたい」

 勝利への執着心は並外れて強く、その想いはジェイを獰猛なハンターへと変貌させる。名門・アーセナルの下部組織で育ち、世界を渡り歩いた男は負けることを決して受け入れない。

「勝ち点3を取るためにはどんなことでもする。そういう心構えで試合に臨まなければいけない。サッカーは単なるゲームではない。生きるか死ぬかの戦いだと育てられてきた」

磐田時代には川辺ら若手の能力を引き出す役割も。

 札幌にとって今季最大のミッションはJ1残留だろう。ジェイが実力どおりの働きを見せれば目標達成に近づくはずだが、期待される役割はそれだけではない。

 このFWとの出会いをきっかけに、若手が急成長する可能性も秘めている。アカデミー出身者の多い札幌は菅大輝など将来有望な選手が並ぶ。札幌には小野伸二、稲本潤一といったプロの鑑がいるが、より我の強い選手であるジェイとプレーすることでも得られるものがあるはずだ。

 ちなみに今季の磐田でもジェイによって能力を引き出された選手がいる。21歳ながら中盤の定位置を手に入れた川辺駿だ。彼の進化に一役買ったのがジェイである。

「僕がボールを持った時、一番に動き出してくれていた。出し手として非常にやりやすい選手だった。動き出しがいい、ということは自分も彼の動きを見ていないといけない。常にパスを出す準備をしていないと『なぜ今出さないんだ』と言ってくれる。要求はすごく高かった」
「敵になるとかなり厄介だけど、また日本で……」

 川辺のMFとしての能力は、元イングランド代表に鍛えられたといっても過言ではない。パススピードやタイミングなど“世界標準”を吸収したことで、川辺はプレーヤーとして一皮剥けた。

 移籍が正式に発表される前から「決まったんですか?」と記者陣に興味津々で“逆質問”してきた川辺に、ジェイの凄みを改めて聞くとこんな答えが返ってきた。

「どんな形でも点が取れるし、札幌にとっても大きな武器になるんじゃないかなと。残留が見えてくる位置までチームを上げられる選手だと思う。僕自身お世話になったし、敵になるとかなり厄介だけど、また日本でプレーを見られるのは楽しみ」

“師匠”のJ1復帰を、“弟子”は一人のサッカーファンとして歓迎しているようだった。