乙女寮編が終わってしまう! ヒロインの谷田部みね子を演じる有村架純(24)をはじめ、助川時子役の佐久間由衣(22)、秋葉幸子役の小島藤子(23)ら、注目若手女優同士のかけ合いが実に愛らしかったが、もうすぐ乙女寮は閉鎖してしまうのだ。はやくも乙女ロスになり、毎日切ない気持ちで朝ドラを眺めている人も多いはず。

 先週放送分では話の中心が毎日のように入れ替わった。乙女寮の面々が働いている向島電気が倒産し、乙女たちは職を失ってしまう。そんな中、体の弱い夏井優子(八木優希・16)は秋田に帰ることを決意し、秋葉幸子は恋人のプロポーズを受け入れ、それぞれ新しい生活へと向かおうとしていた。

 そして6月2日放送分の主役は、兼平豊子(藤野涼子・17)。豊子は成績優秀にもかかわらず高校に行けず、集団就職を強いられて向島電気にやってきた。乙女寮ではみね子たちより年下だが、気持ちの強さで周りを引っ張る存在に。だが、工場が閉鎖する当日、「イヤだあ」と叫んで工場に立てこもってしまう。涙ながらに工場への想いを語る豊子。みね子たちの励ましに心打たれ、豊子はついに工場の扉を開いた……。

 これまで高校に行けないことに文句も言わず、周りに従ってまじめに生きてきた豊子の初めての反抗。仕事もできるしプライドも高い彼女の気持ちの糸が、プツリと切れてしまった瞬間だった。この乙女の感情をしっとりと語り、また激高し、静と動の演技で見事に表現したのが藤野だ。

 藤野は2015年に話題になった映画『ソロモンの偽証』で、14歳にして主演に抜擢され、その演技が高く評価された。だからこそ、今回のキャスティングには違和感があった。有村架純以外の乙女寮メンバーでは、誰よりも知名度が高かったからだ。もっと大きな役で朝ドラに登場できる女優と思っていたが、その思いは乙女寮編の彼女の演技でいよいよ高まった。これは“出戻りヒロイン”があるかもしれないのだ。

 過去の“出戻りヒロイン”としては、高畑充希(25)が2013年下半期放送の朝ドラ『ごちそうさん』でブレイクし、その後、2016年上半期放送の朝ドラ『とと姉ちゃん』でヒロインとなっている。他にも土屋太鳳(22)は2014年上半期の『花子とアン』などNHKのドラマに数多く出演し、その後2015年上半期放送の『まれ』の主演を射止めた。そして何より本作『ひよっこ』の主演である有村も、2013年上半期『あまちゃん』からの“出戻り”である。脇役からヒロインへの出世は、今や、朝ドラキャスティングの一つの軸なのだ。しかも藤野は、黒木華(27)にも負けない昭和顔だ。戦争モノも見事にこなしてくれそう、もんぺが似合いそうだ、と妄想ばかりが膨らんでいく。

 工場の扉が開かれると、青天目澄子(松本穂香・20)が「このバカ!」と駆け寄り豊子と抱き合った。毎日、二人の喧嘩を見ていた視聴者はこのシーンにグッときたはず。発掘というと失礼かもしれないが、無名ながらも才能ある若手女優に出会えるのは、朝ドラならではだ。『ひよっこ』乙女寮編は、若手女優のこれからの活躍を想像できる、ドラマファンにはたまらない時間だったのである。(朝ドラ批評家・半澤則吉)


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