しかし、残念ながら中国では優秀な若手選手が思うように育っておらず、育成年代の代表チームも結果を出せない。ロシア大会予選でも中国代表は苦戦中。今のままでは予選を突破してワールドカップに出場するのは難しい。

一方でサッカーに多額の資金を投資している企業の多くは膨大な余剰資金を抱える土地開発ディベロッパーであり、いずれ不動産価格が下落する事態が生じればサッカー・バブルが弾けてしまう可能性も高いし、将来、習近平氏が権力の座を去ることになれば資金が引き上げられることになるかもしれない。

だが、アジア枠を「8」に拡大すれば、中国やカタールも本大会参加の可能性が広がる。そうなれば、中国やカタールの多くの企業がFIFAやワールドカップのスポンサーにもなるだろうし(すでに、中国の「万達グループ」やカタール航空がワールドカップのスポンサーになっている)、サッカー界に対する投資意欲はさらに拡大するだろう。

1998年フランス大会の時の日本がそうであったように、ワールドカップに初めて出場することでサッカー人気が高まったという例は枚挙にいとまがない。おそらく、中国やカタール以外にも2026年以降、ワールドカップ初出場で恩恵を受ける国がいくつも出現するはずだ。

FIFAは、2022年大会を夏の暑さが厳しく、施設もまだまったく整備されていないカタールで開催することを決めた。これも、天然ガスなどの資源を持つカタールの資金力が魅力だったからだ。

そして、2026年大会以降アジアの出場枠を大幅に拡大することによって、中国や中東からの資金の流れを確保していく。それが、FIFAの思惑なのである。

FIFAは「世界的なサッカーの普及」という大義名分を掲げているものの、本大会参加国数の拡大はFIFAの利益追求の姿勢の産物であることは間違いない。

FIFAはアヴェランジェ元会長、ブラッター前会長の下で急激な商業化を推し進めた。しかし、利益追求に走るあまり数々の不正を働いたとしてブラッター前会長は失脚。2016年にUEFA出身のジャンニ・インファンティノ氏(イタリア系スイス人)が新会長となったのだが、それでもFIFAの利益追求の姿勢は変わらないようである。

しかし、ヨーロッパ大陸にとってほとんどメリットのないワールドカップ拡大の方針について、UEFAやヨーロッパのビッグクラブは黙っているのだろうか? 代表とクラブの関係は、いつの時代にも難しいものだ。選手にとっては貴重なシーズンオフである6〜7月にワールドカップが開催されて長期間にわたって選手を拘束されることを、ヨーロッパのビッグクラブが歓迎していないのは明らかだ。

まして、ヨーロッパ大陸の実力に相応しい出場枠も割り当てられないのだとしたら、ヨーロッパ諸国はワールドカップ参加に消極的になってしまうのではないか…。

もちろん、ナショナルチーム同士の国際試合は、これからも人気を集めるだろう。だが、UEFAが計画している代表チーム同士のリーグ戦が発足したら、ヨーロッパの人々の関心は、ワールドカップよりも、そちらの方に移っていくかもしれない。