再考・犯罪被害者~交通事故遺族の苦悩 ルール守らぬ大人の犠牲に 6歳長女亡くした父「後悔消えない」
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「『あの時、ああしていればよかった』という後悔が消えることはありません」。20年前に長女=当時(6)=を交通事故で亡くした東京都品川区の自営業、佐藤清志さん(59)の苦悩が消えることはない。

【画像】亡くなった菜緒さんと事故の詳細

◆20年たっても

平成15年5月24日午前11時20分ごろ、自宅近くの国道1号交差点。妻に続いて長女の菜緒さんが青信号を自転車で渡っていた。そこに当時30代の女が運転するダンプカーが左折してきて菜緒さんをひいた。ダンプは約100メートル進んだところで停車。運転手は「何かを踏んだが、人だとは思わなかった」と話したという。

事故の報を受け佐藤さんは勤務先から病院に急行した。白い布を掛けられた菜緒さんと対面。顔を見ただけでは菜緒さんだと分からなかった。冷たくなった手を握り、ようやくわが子を感じた。

妻は当時、次男を妊娠中だった。菜緒さんも弟の誕生を心待ちにしていたという。「守ってあげられなかった」。佐藤さんは事故から20年がたっても自分を責めている。

菜緒さんをはねた運転手は当時の業務上過失致死罪で起訴されたが、厳罰を望む佐藤さんは納得ができなかった。「ドライバーは救護の義務も果たしていない」と検察審査会に掛け合ったが、思いは届かなかった。

二次被害にも苦しんだ。運転手の勤務先の会社の社長との話し合いの場では、被害者であるにもかかわらず「親が(子供の)前を渡っているのが信じられない」と言われた。運転手は泣き崩れながら謝罪の言葉を口にするも、事故の原因については「わからない」と繰り返した。

運転手は禁錮2年6月の有罪判決が確定。だが決して気持ちが晴れることはなかった。

事故後、生活も変化した。家族で訪れたテーマパーク。みなで楽しむ場だが、菜緒さんはもう行きたくても行くことができない。一歩、引いてしまうようになった。「家族が一つの方向に向かえなくなった」

◆危険性を訴え

事故から20年、今も苦しみは続く。被害者支援都民センターが開催する被害者同士が体験や抱える悩みなどを話し、共有する支援活動にも参加している。「ルールを守らない大人の責任で子供が犠牲になることはあってはならない」。佐藤さんはその思いを胸に交通事故の悲惨さ、命の大切さを伝えるため、講演することもある。

「車の危険性を再認識してほしい。強者が弱者に対し、ハンドルを握っているという意識が重要だ」。そう訴え続けている。(塔野岡剛)