取材目的で公共施設に足を踏み入れた新聞記者が、建造物侵入の疑いで現行犯逮捕された――。
2021年6月に北海道・旭川で起きた「事件」だ。

容疑者となった記者の勤務先・北海道新聞では、この事件をめぐって編集幹部と現場との間に大きな溝が生まれることになる。

原因は、取材先の対応や警察の捜査を批判せず、現場に全責任を負わせるかのような幹部の姿勢。
のちに公開された読者説明記事はおよそ歯切れの悪い釈明となり、全社員に参加が呼びかけられた社内説明会は幹部の開き直りの場となった。

若手記者のみならず採用内定者にまで社への不信が広がる中、ここ3カ月ほどは新たな動きが伝えられず、
一部で求めがあった第三者調査委員会の設置なども実現しないままだ。

時間とともに語られなくなったその事件はしかし、今も終わっていない。(ライター・小笠原淳)

●道新の労働者7割が「実名は不適切」

一報が伝わったのは、2021年6月22日夜のこと。
北海道警察・旭川東警察署が地元記者クラブ加盟社に提供した『報道メモ』には、そのいきさつが簡潔につづられている。

《被疑者は、正当な理由がないのに、令和3年6月22日午後4時30分頃、
旭川市緑が丘東2条1丁目に所在する大学施設に侵入したところを同大学職員に発見され、現行犯逮捕されたもの》

上に言う「大学施設」とは、そのころ学長解任問題が話題となっていた旭川医科大学。
「被疑者」は、まさにその問題の取材にあたっていた記者の1人だ。

『メモ』には「建造物侵入」の罪名とともにその人の氏名や年齢、性別が明記されている。
それが地元紙・北海道新聞の新人記者(20代)であることは報道大手のほぼ全社が把握していたが、
ニュースの発信にあたっては多くの媒体が容疑者の名前を伏せて報じた。

侵入行為は窃盗やわいせつ事案などの容疑に付随して罪に問われることが一般的で、
それらを伴わないケースを軽微な事案とみなして当事者を匿名とする判断は十分あり得る。
当時の状況からみても、記者の侵入の目的が「取材」であることはあきらかだった。




「新人記者逮捕」現場からの質問に「逆ギレ」する幹部たち…北海道新聞、迷走の6カ月
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