「電通以前にさかのぼる」 山本夏彦『私の岩波物語』(1994年)より

 電通の成功は敗戦直後旧満鉄やもと陸海軍の人材をどしどし入社させ、その人脈を利用したことにある。
民放のラジオ局にこれをいれたことにある。
やがてテレビにもいれたから、電通の息のかからないラジオテレビはなくなった。
日本のマスコミは一つになった。

 したがってテレビのゴールデンタイムは電通の握るところとなり、電通を通さなければいい時間は買えなくなった。
新聞やテレビの広告の大半を握っているから、もし電通が広告をいれなければその新聞はつぶれないまでも大打撃をうける。

 吉田秀雄(元電通社長)は死んだがそのやり口は残っている。
いまだに各界名士の子ならどんな出来ない坊主でも入社させるそうである。
その子につながる人脈を利用するためだから当人は無能でもいいのである。
これ以上知りたければその道の本を読めば分る。
私は広告界の見物人である。
もし電通が日本の言論を左右したければできるだろう。
その気がないのはついこの間まで賤業で、幹部にそれを知るものが生き残っているせいで、近く死にたえて電通をはじめから世界一と思って入社した社員の天下になったら、どうなるか分らない。
野心家が出てくる可能性はある。

 何年か前「ご大葬」を電通がひきうけるといううわさをきいたことがある。
今あらゆるプロジェクト、あらゆるイベントのかげには電通がいる。
昭和最大のイベントはご大葬だからこれに手をのばすのは当然である。
けれども、幸か不幸かそのことはなかった。

 ただ選挙のポスターは代理店の製作である。
代議士の衣裳も演説も代理店が大金をとってかげで指図している。
候補者にそのセンスがないからそれと見分けがつかないが、そのうちつくろうになるだろう。
彼らは電通の言うなりに手足を動かし口をぱくぱくさせる。
そういう候補者が画面にあらわれるようになるだろう。


電通が史上最大の巨額赤字……高くついた「のれん代」の恐ろしさ
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2102/18/news110.html