5月25日の大型連休に開催予定だった世界最大級の同人誌即売会「コミックマーケット98」が
新型コロナウイルスの影響で、1975年の開始以来、初めて中止された。創作者やファン、
運営団体や印刷業者ら多くの人の熱意で続いてきた一大イベント。次回開催も不透明な中、
参加者の意欲や企業体力の低下が懸念され、従来の仕組みが機能しなくなる恐れも。
日本の漫画文化を支えてきた土台が危機に直面している。 (清水祐樹)


◆夏に東京ビッグサイト使えず、GWに予定も…
 コミケは毎年、夏と冬に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれ、昨年の来場者は
夏冬とも四日間で延べ七十万人を超えた。今夏はビッグサイトが東京五輪・パラリンピックの
報道拠点となるため使用できず、初めてゴールデンウイーク(GW)に開かれるはずだった。
 しかし、新型コロナの感染拡大を受け、運営する「コミックマーケット準備会」は、
三月二十七日に中止を決定。安田かほる共同代表によると、これまでも開催が危ぶまれた時はあったが、
何とか乗り切ってきた。四十五年の歴史の中で初の事態に「『三密』は避けられないイベントなので仕方ない。
それでも、とにかく悔しい」と無念さをにじませる。
 コミケはただの即売会ではない。多彩なジャンルがそろい、同好の士が同人誌を介して交流を図る
貴重なコミュニケーションの場でもある。会場設営を主に支えるのは、そうした「場所」づくりに意義を
見いだすボランティアだ。参加サークルはコミケを目標に計画を立てて、創作活動に励む。
 同人誌の多くは既存の作品をモチーフにした「二次創作」。漫画制作へのハードルを下げることから、
「クリエーターのゆりかご」ともいわれる。コミケで育ち、プロとして活躍する人気漫画家も多く、
日本の漫画文化を下支えする基盤ともなっており、その魅力は世界にも広がりつつある。
 安田さんは「中止で参加者のモチベーションが低下すると、作品が減り、ボランティアが蓄積してきた
ノウハウも途絶えかねない。コミケ文化が収縮してしまうのでは」と危ぶむ。