元朝日新聞記者でアフロヘア−がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思
い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 数カ月前、わが近所のスーパーで「自動支払機」が導入されました。レジで合計金額が出たら、指定された番号の支払機のところへ行き、
画面の指示に従って自分でお金を投入。お釣りとレシートを受け取るというものです。なるほど人口減少による人手不足は東京でも確実に進行しているのだと実感します。

 でもこれでサクサク事が運ぶかというと、そうもいかないのでした。レジで計算は終わってもしばし待たされることがあるのです。ふと見
ると、機械の操作に手間取るお年寄りの姿が。レジの人が助け舟を出すのですが、ただでさえ慌てているお年寄りはなかなか指示が耳に入らず戸惑っています。

 そんな様子を見ていると、なんだかやるせない気持ちになってくる。

 年をとれば誰だって、新しいことを覚えるのは難しくなる。それは努力不足でもなければ恥ずかしいことでも何でもありません。それな
のに、ただ日々の買い物をするだけで、まごまごさせられ、自分は世の中から取り残されているのだと公衆の面前で感じなきゃいけないな
んて、なんと残酷なことでしょう。それがイヤで買い物に行きたくなくなる人だっていると思うのです。ますます高齢化が進む世の中で、それは決して軽視できないことではないでしょうか。

 買い物とは、世の中とつながる大切な営みです。家から外へ出て、自然の空気を感じながらてくてく歩き、店でいろんな商品を見て、欲
しいものを吟味して選び、店の人にお金を払って商品を受け取る。その何げない一連のことが、どれほど人のつながりと健康に役立っていることか。

 そう考えたら、ものを売る人の責任は少なくないものがある。

 効率化も大事ですが、なくしてはいけないものもあるのではないでしょうか。誰のために、何のために商品を売るのか。それは究極の
ところ人の幸せのためなのだと思います。もし客を不幸にする効率化ならば、それを本末転倒という。

※AERA  2018年4月23日号
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