文春オンライン 11/25
https://bunshun.jp/articles/-/67083

声優事務所のリソース不足
 声優のアイドル化/タレント化が進行してきました。これは1970年代のいわゆる「声優ブーム」から、現在に至るまで進行し続けている状況ではありますが、近年急激に肥大しました。これによって起きたのは次の事態です……。

 マネージャーのやるべき仕事がめっちゃ増えた!

「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、これはかなり重大な事態です。

 先ほどご説明したように、タレント=声優ひとり当たりに対する人的リソースが、声優事務所はもともと少ない傾向にあります。つまり声優としての仕事以外、アイドル/タレント的な業務の面倒を見るだけのリソースが足りていないのです。また、声優が人気になり、スキャンダルや事件を起こしてしまったとき、事務所がその対応にも追われることになります。事務所の利益(取り分)を考えると、本来そこまでするようなことではないことにもリソースを割かねばならない状態です。

 事務所側が声優に対して心ない対応をしているわけでは、まったくありません。各マネージャーは、それぞれ力の限り声優のために尽くしていると思います。しかし、マネージャーの絶対数が足りていないのです。「足りないなら雇って増やせばいい」と思われるかもしれませんが、これまで何度も出てきているように声優というビジネスにおいて声優ひとり当たりに対する人件費が潤沢にあるわけではありませんし、タレント化した声優のマネジメント業務は一朝一夕に習得できるものでもありません。

 以前、他社のマネージャーが「高校生なんてどう面倒見ていいかわからないよ」と嘆いていたことがあります。そう、「タレント化した声優」の面倒を見るというのはこれまでに無い側面が多々あったのです。

 そして、いまや声優事務所の社員それぞれの努力ではどうにもならないくらい、声優たちの仕事は質も量も変化してしまいました。それなのにギャラが増えるわけでもなく、事務所と声優との間の取り分が大きく変わることもない状態が続いているのです。事務所の負担が増えるからといって事務所の取り分を増やすと、声優としてはこれまでより減るわけですから、なかなか難しい問題なんです。

 声優のギャラを維持するには極端な話、声優事務所の業務体制がブラック化するか別の収入でなんとかせざるを得ない状態ともいえます。

未成年の声優の増加とノウハウの不足
 声優事務所の仕事において質的な変化が起きているのは、若年層、とくに未成年の声優のマネジメント業務の増加です。これまでの声優事務所は、声優に対して「個人事業主主義」的、いわゆる「エージェント契約」的なスタンスで接してきました。つまり自立した「大人」をパートナーとして仕事をしてきたわけです。

 しかし、心身ともに未熟な10代に対して、同じ態度で接することは適当ではないでしょう。本人だけではなく保護者の方ともコミュニケーションを取る必要がありますし、マネージャーは現場へ付いて回る必要があります。アイドルとして重用されるケースも多いため、様々なことからタレントを守らなければならないことも増えてきます。

 事務所側がサポートしなければならない領分は、大人を相手にするよりはるかに多く複雑になることはみなさんも想像できるでしょう。いままでの声優事務所とはまったく異なる仕事に当たるため、労働力だけでなく独特の専門スキルが求められるところでもあります。

「声優とは大人として自立しているもの」という、これまで声優業界が前提としていたスタンスが通用しなくなっているのです。前述の通り、声優事務所側はもともとエージェント契約的なスタンスですから、こうした世の中の流れに対するマネジメント業務的なノウハウも不足していました。

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